安藤裕康・東京国際映画祭チェアマン=勝田友巳撮影

安藤裕康・東京国際映画祭チェアマン=勝田友巳撮影

2022.10.20

インタビュー:映画祭の国際性強化し存在感を高めたい 安藤裕康・東京国際映画祭チェアマン

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

勝田友巳

勝田友巳

第35回東京国際映画祭が、10月24日開幕する。コロナ禍から脱しつつある中で、3年ぶりにレッドカーペットが復活、内外のゲストも大勢集まり、華やかさを取り戻しそうだ。就任4年目、映画祭の改革に取り組んできた安藤裕康チェアマンに、今回の映画祭と未来について聞いた。

 

レッドカーペット復活 映画祭らしく

――過去2年、コロナ禍で規模を縮小し、ゲスト来日もない中での開催でした。ようやく元の姿に近づきますね。
 
コロナ禍はまだ終息したとは言えず、映画祭も本格復活とは言えません。今回は「飛躍」をテーマとして掲げていますが、実際には第一歩。来年こそ完全復活したいですね。
 
とはいっても、海外のゲストも増えるし、日本の人気俳優も来てくれる。100人規模になりそうです。映画祭の招待だけでなく、自費でも来たいという映画人も増えています。レッドカーペットのような華やかさこそ、映画祭らしいのではないですか。
 
――チェアマンとして、「映画祭の一丁目一番地は上映作品」と繰り返し強調しています。今年はいかがですか。
 
コンペティション部門の15作品は、全部見ました。どれが良かったとはここでは言えませんが、意欲的、個性的な作品ばかりで面白いですよ。15本のうち8本がワールド・プレミアです。市山尚三プログラミング・ディレクターと、ワールド・プレミアに固執すると良い作品が集まりにくく、〝残り物〟になりかねないと基準を緩めたんですが、今年はかえって増えました。
 
オープニングの「ラーゲリより愛を込めて」、クロージングの「生きる LIVING」など話題性のある作品もそろっています。


第35回東京国際映画祭開幕作品「ラーゲリより愛を込めて」 ©2022 映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ©1989清水香子

オール映画界体制で、新しいことを

――就任以来、作品選考責任者の交代、会場移転など、改革を進めています。
 
何をやるかと同時に、いかにやるかも重要だと思っています。運営や社会との連携をどうするか、議論しています。改革に痛みを感じる人もいるし、反発する人もいる。オール映画界の体制が必要です。
 
カンヌやベルリン、ベネチアといった国際映画祭も国の支援を受けています。映画祭が引っ張っていく部分と、後押しを受ける部分と、二つがそろわないといけない。映画界のバックアップを確保しながら、新しいことを実現していきたいですね。


 

認知と作品は鶏と卵 好循環を作りたい

――世界の映画界で、東京国際映画祭の存在感はもう一つ高まりません。課題はどこにあるのでしょう。
 
国際性の強化には、特に力を入れたいですね。国際社会とのリンクを強くし、認知度を高めてそれなりの地位を得ることが大きな目標です。3大映画祭も長い歴史の中で、努力を積み重ねてきました。
 
たとえばカンヌで賞を取った作品は、認知が世界的に高まって、日本でもビジネスとして成り立つようになる。出品してもビジネスにならない、メリットがないと思われていたら、良い作品を送ろうという意欲につながらないでしょう。製作者が、東京をスキップしてカンヌにと考えても、ビジネスの論理だからしょうがない。われわれが努力して、東京に出したいと思ってもらえるようにならなければ。
 
これは鶏と卵みたいなもので、映画祭の認知度が高まればいい作品が集まるし、いい作品が集まれば認知度も高まる。その好循環を生み出したい。そのために、映画の町である日比谷に会場を移し、近隣団体とも組んで映画祭の気分を盛り上げて、社会やメディアの注目が集まるようにする。
 
黒澤明賞を復活させたのも、その一つです。国際性や認知度を、黒澤明の賞があることで広げたい。イニャリトゥ監督は、黒澤賞は名誉だと、日程を調整してまで東京に来てくれる。賞があることで東京に注目してもらうことが狙いなんです。

安藤裕康・東京国際映画祭チェアマン
 

国民同士の理解深めるきっかけに

――東京国際映画祭の独自性は、どこにあると思いますか。
 
独自性は、やはりアジアだと思います。アジアはわれわれの庭のようなものです。その映画祭ということで、欧州や中南米など世界の映画界が注目してくれる。「アジアの未来」部門は、アジアの若い監督を発見して育てていくことが目的です。東京から世界に出ていく好循環を作りたい。何年も前からの方針ですが、継続して、加速させたいです。
 
――海外の映画祭を取材すると、日本との映画の位置づけの違いを感じます。
 
映画に限らず、日本は芸術文化に対する見方が低い。まず政治、経済、社会が来て、次に文化。これは文明度の尺度じゃないですか。そこはおかしいと思う。外務省にいた時から、それをひっくり返すことが役人生活の課題でした。一生懸命やったけど、難しかったですね。文化は国民同士の交流です。文化を通じた相互理解が非常に重要なんです。国や政府を離れて、国民同士の理解を進めることが、映画祭の大きな役割だと思います。
 
 
■安藤裕康(あんどう・ひろやす) 1944年生まれ。70年外務省入省、駐イタリア特命全権大使などを歴任。国際交流基金理事長を経て、2019年から東京国際映画祭チェアマン。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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