東京国際映画祭交流ラウンジ ブイ・タック・チュエン監督(左)と藤元明緒監督=鈴木隆撮影

東京国際映画祭交流ラウンジ ブイ・タック・チュエン監督(左)と藤元明緒監督=鈴木隆撮影

2022.10.25

ベトナムと日本 水と情はつながっている ブイ・タック・チュエン×藤元明緒 東京国際映画祭交流ラウンジ

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

鈴木隆

鈴木隆

国際交流基金と東京国際映画祭が協力して「日本と世界の映画人との出会いの場」として開設した「交流ラウンジ」も今回で3年目。アジア、そして世界と日本の映画人が東京で語り合う場だ。今回の第1弾として25日、「輝かしき灰」が今回のコンペティション部門に出品されたベトナムのブイ・タック・チュエン監督と、日本で働くベトナム人女性を描き第33回のワールド・フォーカス部門に出品された「海辺の彼女たち」の藤元明緒監督が登場した。
 

3人の女性の愛映す「輝かしき灰」

藤元監督が前日に見た「輝かしき灰」について、「ベトナム南部の海沿いの村を舞台に3人の女性の愛の形を映し出した作品。愛の深さや複雑さ、多様性が表現されていて日本人としてもシンパシーを感じることが多かった。前作『漂うがごとく』も今作も結婚式のお祝いの場から始まっていて群像劇として勉強になった」と感想を述べた。
 
チュエン監督は「映画作りは十数年ぶり。前作は都会が舞台だったが、今回はベトナム南部の海沿いの村」とした上で、「ベトナムを代表する作家グエン・ゴック・トゥの短編小説の映画化。キャラクターをいかに生き生きと表現し、ベトナムのデルタの地域で質素に生きる人たちを描くかに苦心した」と語った。
 

弱い立場の人の内面に迫った「海辺の彼女たち」

「海辺の彼女たち」を見たチュエン監督は、藤元監督が「社会の中で弱い立場にいる人を被写体にし、日本に住むベトナム人の実際のくらしを描き、その内面にまで迫っていた」と高く評価。それを受けて藤元監督が「実際にあった事件がベースの作品。生きていく尊厳、人間が生きるとはどういうことか、私の妻も家族を支えるために日本に来たので、彼女の感情や苦しみが根底にあった」と説明した。
 
藤元監督が「輝かしき灰」での「人物のまなざしが印象的で、繊細な芝居もすばらしかった。キャスティングはどうしたか」と尋ねると、チュエン監督は「映画で一番大切なのは俳優。キャスティングに全ての力を注いでいる」と返した。
 
藤元明緒監督

「俳優を探していたときはメインの女の子は13歳だったが、撮影が始まった時点で18歳。もう一つ、俳優たちには現地(撮影地)に早く来てもらい、その場所に慣れてもらっている。撮影前にこうしたアプローチをすることは大事だ」と話した。日本では、河瀬直美監督が俳優たちに撮影の場所に一定期間住んでもらい、その後から撮影する手法をしばしば取っており、同じようなスタイルの監督がベトナムにいたことになる。さらにチュエン監督は「今回の作品では、俳優が撮り続けることに関して私を励ましてくれた。自分の仕事をキャンセルして辺境の(撮影)地まで来てくれた」と感謝の言葉を述べた。
 

両国の長い海岸線でつながり

2人の監督が話し合う中で共通のテーマも浮かんできた。藤元監督が「チュエン監督作品には、水とか海とかが日常的に登場する。今回の作品では水と人が溶け合って、融合している印象を強く受け、人の原風景を見ているようだった」と指摘。それに応えたチュエン監督は「日本もベトナムも長い海岸線を持っている。水と情(感)はつながっているのでは」と呼応した。チュエン監督は続ける。「人の気持ちもそうだが何かが押し寄せると制御できない。水もそう。この作品のストーリーの本質は水と人間」と2人の監督の言葉が熱を帯びてきたところで終わりの時間になった。
 
プイ・タック・チュエン監督

最後にモデレーターの石坂健治東京国際映画祭シニア・プログラマーが、両国の映画界の交流にふれると、藤元監督は「一ファンとしても日本が舞台のベトナム映画を撮ってほしい。チュエン監督の作品には国籍や国境にとらわれないものがある」と話し、チュエン監督も「今日は刺激になる話ができて良かった。藤元監督にも新しい視点でベトナムについての映画を」とエールを交換した。

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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