市山尚三・東京国際映画祭プログラミング・ディレクター=勝田友巳撮影

市山尚三・東京国際映画祭プログラミング・ディレクター=勝田友巳撮影

2022.10.23

インタビュー:東京国際映画祭 コンペのレベル高い 楽しみながら発見して 市山尚三・プログラミング・ディレクター

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

勝田友巳

勝田友巳

第35回東京国際映画祭(TIFF)が始まった。コンペティション部門では15作品が、東京グランプリなどの賞を競う。「今年はレベルが高い。あたらしい才能を発見して」と、プログラミング・ディレクターの市山尚三さん。今年の作品について聞いた。


コロナ禍の影響? 救い残す映画目立つ

――コンペティション作品は15本。107の国・地域から応募された1695本から選ばれました。今年の作品はいかがですか。
 
昨年は、応募作にコロナ禍を扱った映画が多かったんですが、今年はほとんど見られませんでした。撮影現場では対策をとっているのでしょうが、内容には影響が感じられませんね。
 
レベルは高いと思います。応募本数は増えたし、他にも上映したい作品もあって、セレクションに困りました。その国の社会問題を扱いながら、それを直接描くのではなく、コメディーや刑事ものといったジャンルの枠組みの中で、社会批評をする作品が目立ちました。

難解一辺倒は見当たらず

半面、「これぞアート映画」というような、難解な作品は見当たりません。見てもらえば、どうしてこんなものを、と思う人はそんなにいないのではないでしょうか。賞の審査委員も、困ると思いますよ。予想がつかないですね。
 
また僕の観点からは、悲劇のどん底に突き落とすという感じの映画も少ないです。ハッピーエンドではないかもしれないが、どこかに希望を残して終わる。コロナ禍で、救いのない作品は作りたくないということかもしれませんね。


 東京国際映画祭ホームページ

ベネチアの方向転換の余波も

――ワールド・プレミアが8本。国際映画祭にとって世界初披露の場に選ばれることは重要ですが、作品集めは大変では。今年はヨーロッパの作品が目立ちます。
 
ワールド・プレミアにこだわらずハードルを下げて、ジャパン・プレミアならいいことにしましたが、それで固めようとしなくてもクオリティーの高い作品が集まりました。TIFFの直前、9月に開かれるベネチア国際映画祭のコンペに、米アカデミー賞狙いの作品やネットフリックス映画が選ばれることが多くなって、アジア映画が少なくなる傾向にあります。ベネチアではじかれた作品が、ヨーロッパも含めてTIFFに来ているのかもしれません。
 
一方で、今年は東アジアの作品がありません。中国は検閲が止まっているようで、知り合いの監督も、検閲を通ってないので外に出せないと言っていました。カンヌやベネチアにも、中国映画はありませんでした。
 

地域バランスにこだわらなかった

韓国映画は少なかったですが、理由はよく分かりません。パク・チャヌク、ポン・ジュノ、ホン・サンスといった50~60歳前後の世界的巨匠に続く、下の世代が育っていないのでしょうか。レベルが低いことはありませんが、娯楽性の強い作品はコンペの中で浮いてしまいそうだし、インディペンデントの良作だと格が小さい。
 
無理に地域バランスを取るのはやめました。ベテランの名前だけそろえても意味はないし、バランスを理由に質が今ひとつという作品を選びたくない。結果的に、スペインの作品が「ザ・ビースト」「マンティコア」と2本、カザフスタンとキルギスの映画が両方入って、バランスを無視したような形ですが、これはしょうがないと思っています。


「山女」©YAMAONNA FILM COMMITTEE

日本3作 甲乙付けがたい

――日本の作品がコンペに3本もありますね。
 
例年と同じく、2本と考えて準備していましたが、東アジアの他の国の作品がなかったし、3本とも他の作品と並んで遜色なく、1本を外すのは難しかった。日本の応募作品は、昨年よりも上映すべきものが多く、迷いました。他の部門に回った映画でも、コンペや「アジアの未来」部門で上映していいものが何本もありますね。
 
「窓辺にて」の今泉力哉監督は自分のスタイルを持ち、作家的な力がある。松永大司監督の「エゴイスト」は、ホモセクシュアルなラブストーリーで社会性があるし、福永壮志監督の「山女」は、江戸時代の村落を舞台にした、現代に当てはまるような共同体の物語です。
 

「エゴイスト」©2023高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

常連監督も生まれつつある

――TIFFに再来する監督も多いようです。
 
「ライフ」のカザフスタンのエミール・バイガジン監督は、3作目の「ザ・リバー」に続いて連続でTIFFコンペです。キルギスのアクタン・アリム・クバト監督は「あの娘と自転車に乗って」がTIFFで上映され、「旅立ちの汽笛」もTIFFコンペでした。
 
「孔雀の嘆き」のスリランカのサンジーワ・プシュパクマーラ監督は「ASU」が前回のTIFF「アジアの未来」部門で上映されています。「テルアビブ・ベイルート」のミハル・ボガニム監督は、デビュー作の「故郷よ」がTIFFで上映されました。「ファビュラスな人たち」のロベルタ・トッレ監督も「アンジェラ」がTIFFのコンペに出品されています。


 「窓辺にて」©2022「窓辺にて」製作委員会
 

未知の驚き、経済成長の後ろ盾

――逆に、市山さんが知らなかった監督の作品はありますか。
 
チュニジアのユセフ・チェビ監督の「アシュカル」はこれがデビュー作で名前を知りませんでしたが、映画を見て驚きました。殺人事件を追う刑事のスリラーの背景に、民主化運動の「アラブの春」が残した傷があぶり出される。チュニジアの映画は宗教や女性の問題を真面目に描くような作品だったので、こういうのが出てくるとはと。カンヌの監督週間に出品されていたのを見逃したのですが、セールスエージェントが応募してくれました。
 
ベトナムのブイ・タック・チュエン監督はデビュー作を見ていましたが、「輝かしき灰」は監督が直接送ってくれました。これも見て驚いた作品です。デビュー作よりずっと予算をかけていて、経済の成長ぶりを感じました。
 
――今回は少なかったとはいえ、アジア諸国の映画は、このところどんどん面白くなっていますね。
 
そうですね。デジタル化の影響が大きいと思います。かつては、素朴で良くできているけれど、設備の不足で、現像が良くない、音が悪いということも多かったですが、デジタル化で地域差がなくなりました。スリランカの「孔雀の嘆き」はポストプロダクションをイタリアでしたそうです。これもデジタルだから可能で、フィルムだと輸送する手間も大変ですが、今はネット経由で素材を送れる。むしろ日本映画の方が時間がかけられず、音響面で負けていると感じることがありますね。



バランスが悪くても突出した部分を

――コンペ作品の選考に、基準はありますか。
 
普通に良くできているだけでは、物足りないですね。多少バランスが悪くても、突出したものがある作品の方が、印象に残ります。ガラセレクションなどではそうした作品があってもいいが、賞を競うとなると、突出したものがある映画の方が面白い。観客には、自分の目で新しい発見をしてほしい。東京だからといって無理に特色を出そうとせず、選ばれた映画を見てもらいたいです。
 
――東京国際映画祭は、世界の映画祭の中でどのように位置づけられていると思いますか。
 
3大映画祭は依然突出して大きいですが、そこに入らなかった、間に合わなかった作品の選択肢の一つにはなっていると思います。ロカルノかサンセバスチャンか東京か。ベネチアのハードルが高くなっているので、ここでだめなら東京となれば、レベルの高い作品が集まる。今回のコンペの何本かは、以前のベネチアならコンペに入ったのではないかという作品がありますよ。
 

キャパ増え、外国のゲストも多数

――コロナ禍から脱出しつつある中での今年の映画祭、どんな雰囲気になりそうですか。
 
今年はTOHOシネマズや丸の内ピカデリー、丸の内TOEIと地域の大きな劇場も会場となります。上映本数も増え、観客席の総数も増えているので、余裕があると思います。そこは大きな進歩だと思います。
 
特集上映は、東京フィルメックスや国立映画アーカイブと連携します。ツァイ・ミンリャン監督特集と青山真治監督の追悼上映はフィルメックスと共催、国立映画アーカイブとは「長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー」で連携し、上映会場も分散します。
 
それから外国のゲストがたくさん来ます。昨年は審査委員長のイザベル・ユペールさんが来日しましたが、バブル方式でどこにも行けませんでした。今年は町の中で目撃できるようになるかもしれません。お祭り気分は出ると思いますね。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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