第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。
2022.10.25
「リリイ・シュシュのすべて」に衝撃 シム・ウンギョン 東京国際映画祭審査委員が会見
第35回東京国際映画祭の審査委員記者会見が25日、行われた。「羅生門」「東京物語」「リリイ・シュシュのすべて」。5人の国際的な審査委員が口々に、日本映画への敬意と愛を語った。
クロサワは偉大なストーリーテラー
審査委員長の米国の演出家・映画監督のジュリー・テイモアは「15歳の時にパリで初めて見た外国映画が『羅生門』(黒澤明監督)だった」と振り返った。「わたしの人生を変えた。黒澤と他の日本映画の監督たちのおかげで映画監督になった。黒澤はすばらしいストーリーテラーで名監督だ」
©2022TIFF
コロナ禍を経た世界では「すべてがリアルになりすぎた」といい、「大切なのは想像力。映画は暗い物語でも美しく語り、心を開き、文化を超える。ソファでスマホを見るのではなく、みんなと一緒に映画館で映画を見よう」と訴えた。
芸術は世界に希望を与える ジョアン・ペドロ・ロドリゲス
ポルトガルの映画監督ジョアン・ペドロ・ロドリゲスは、「黒澤明、溝口健二、小津安二郎、成瀬巳喜男、清水宏、その他大勢の日本の監督の影響を受けた」と語った。
©2022TIFF
「映画は個性的な世界の見方を示すものだ。同時に普遍的で、異なる人たちの感情を一つにする。コロナ禍だけでなく極右の台頭など恐ろしい時代だが、映画が、芸術が希望を与え、わたしたちを前進させてくれる。審査が楽しみだ」
「東京物語」が大好きだけど マリークリスティーヌ・ドゥ・ナバセル
元アンスティチュ・フランセ東京館長のマリークリスティーヌ・ドゥ・ナバセルは「『東京物語』(小津安二郎監督)が大好き」。映画の光景を胸に熱海に行ったものの「仲むつまじい老夫婦がいるような景色とは違ってがっかりした」と笑わせた。
©2022TIFF
「コロナ禍で映画館が閉鎖されていた一方で、たくさんの映画が作られた。今回はその間に作られた、強く独創的な映画を見ることになる。世界から集まった多様な映画を、大きなスクリーンで一緒に見られるのがうれしい」
映画の力を感じたい シム・ウンギョン
韓国の俳優、シム・ウンギョンは「初めて見た日本映画は、中学生の時の『リリイ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督)。それまでに見た映画とは違っていて衝撃を受け、感受性を豊かにしてくれた。大切な作品」と熱っぽく。「力は足りないかもしれないが、映画の力を大勢の人と感じたいという思いで、審査委員を引き受けました」
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映像表現との出会いが楽しみ 柳島克己
日本の撮影監督、柳島克己は、北野武監督とのコンビで知られる。「撮影現場の裏方的立場で、審査委員としての参加は光栄で責任を感じる。映画は映像で表現されるもので、多くの中から選ばれた作品と出会うのが楽しみ」
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コロナ禍での映画の役割を問われたテイモアは、「映画の役割は娯楽と癒やし」という。最古のアーティストはシャーマンで、共同体の災厄に際し、内面を旅して物語を聞かせ、闇をはらった。がんで死が近いという女性が、わたしが監督した映画『フリーダ』を見て、痛みを抱えた主人公の鮮やかな姿に、人生の新しい見方をもらったと話してくれた。他者の物語は、希望と他の人との一体感を与えてくれる」
リスクを恐れて飛躍はない
映画祭のテーマである「飛躍」については「怖がらないこと」と答えた。「リスクが大きいほど得るものも大きい。そう言ったのはディズニーの上層部だった。わたしがミュージカルの『ライオンキング』を演出したとき、だれも成功すると信じていなかった。同じことの繰り返しでは飛躍はできない」と力説した。
今回のコンペ作品について「英語の作品が一つもない。珍しいことで、興味深い」と話した。
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