©2005「ALWAYS 三丁目の夕日」製作委員会

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2024.8.13

「ゴジラ- 1.0」の山崎貴監督作品「ALWAYS 三丁目の夕日」が教えてくれた、未来への希望と家族の絆

Y2K=2000年代のファッションやカルチャーが、Z世代の注目を集めています。映画もたくさんありました。懐かしくて新しい、あの時代のあの映画、語ってもらいます。

岡野 紗弥

岡野 紗弥

昭和33年(1958)。日本が戦後の高度経済成長期に突入した頃であり、1万円札発行、チキンラーメン発売、国立競技場そして東京タワーが完成した年である。十年一昔とは言うけれど、今の感覚では五年一昔だろうか。
そんな流れの速い現代を生きる私から見た、66年前の東京の下町を背景にさまざまなキャラクターたちの生活と人間模様を描いた「ALWAYS三丁目の夕日」を紹介したい。第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞を受賞した「ゴジラ- 1.0」の山崎貴監督の2005年の作品。


 

初めて見る戦後の日本に、夢と希望を感じた

 戦争は終わった。みんなゼロからのリスタート。そこには、でっかい夢と希望がたくさんちりばめられていた。その象徴とも言えるのが、出来上がれば世界一の高さになる建設中の東京タワーである。今やスカイツリーにすっかり王座を譲り、レトロかわいいともいえる存在だが……。そうか、世界一の時があったのだ。
 
青森からSLに乗り集団就職で上野駅に降り立った六子が見た東京は、私にとって見たことのない、でもそんな私にも懐かしさを感じさせる光景であった。
舗装されていない道路、井戸、玄関の土間、竹の物干しざお、駄菓子屋のスカ(はずれ)、所狭しと建物がひしめき合うノスタルジックな街並みは、どこかの温泉街を思わせる。リードのついてない犬、塀と塀の狭い間にある謎の抜け道、よその家の柿を黙って取ったり、「ただいま」と言うや否や「行ってきます」とランドセルを放り出し遊びに出掛ける子供。そんな様子を見て、自由って素晴らしい、いや、うらやましいと思う。ドラえもんで見た原っぱにある土管もリアルに存在していて、なんだかうれしい。上の段に入れた氷で冷却する冷蔵庫、湯たんぽのお湯での朝の洗顔、補充式の置き薬、なるほど、これが先人の知恵かと感心もする。
昭和家電の三種の神器は、冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビであったとは知らなかった。鈴木オートにやっとやっとテレビがやってきた日のことだが、あの盛大さを何と表現したらよいだろう? スーツ姿で電源オンのスタンバイをする社長、祝い酒を持ってくる人、鈴木家にあふれる町中の人、大人も子供もキラキラした目で食い入るように見る力道山のプロレス中継。全員がテンションMAXで応援する一体感がすごくて、「こういうふうにつながるっていいな」と思った。残念ながら現代のご近所関係ではなかなか難しい。また冷蔵庫が氷冷却から電気に変わり、捨てられた旧冷蔵庫を見つめる氷屋さんの悲しい表情を見た時、これからAI化が進むとなくなるといわれている仕事の話を思い出した。仕方ないけれど、いつの時代にも発展と衰退が共存するしかないのだろう。


さまざまな家族の絆のあり方にホロリ……

 この作品には、さまざまな形の家族の絆が描かれている。
まず、口より手が早く、勢いが半端ない短期なお父さん(鈴木オートの社長、則文)と、その怒りんぼうのストッパーである優しい良きお母さん(トモエ)が、やんちゃな息子の一平を思う気持ち。本当に今の時代にいたらブーイングが出そうなお父さんだが、ちゃんと優しさも持ち合わせており、決して憎まれキャラではない。その夫婦の絶妙なバランスも絆を感じる。
そして、東京へ娘を集団就職に出した青森の六子の母が、遠く離れた娘の成功を願い、心配でたまらないことを隠して娘を思う気持ち。本当の気持ちとは裏腹に里心がつかないようわざときつい言葉で鼓舞するなんて、なんと強いお母さんだろうと思ったが、厳しくても強い絆で結ばれているからこそできることなのだなと思った。この二つはいずれも親が子供を思う実の親子の絆である。
 
一方、鈴木オートの社長と奥さんが、住み込み社員である六子を鈴木家の家族同然に思う気持ち。社長VS六子でお互いの勘違いから大ゲンカをするが、それもまた絆を深め合う一因になったのであろう。
 
売れない小説家の茶川竜之介は独身だが、居酒屋の女将ヒロミから母親に捨てられ身寄りのない淳之介を預かることになり、最初は淳之介のことを毛嫌いしていたが、徐々に打ち解け合うようになる。そして淳之介を中心に、ヒロミに思いを寄せる竜之介、竜之介に引かれていくヒロミ、この3人が次第に家族を意識して互いに大切に思う気持ち。これは「縁もゆかりもない赤の他人」が構築する家族の絆である。淳之介が本当の父親であるお金持ちの社長よりも貧乏な茶川と暮らしたかったこと、茶川も自分の本当の気持ちに気付いたこと、それは血縁関係を超える絆がそうさせたということである。
 
時代はどんどん変わり、現代は人間関係が希薄になっていると言われている。しかし、この作品から、いつの時代も「絆」って大事なもの、大切にしなくてはならないものだと感じた。それが家族でも、縁もゆかりもない赤の他人でも。
お父さん、お母さん、一平ちゃん、
そうだよ、66年先だって、ずーっと夕日はキレイだよ。
 
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ライター
岡野 紗弥

岡野 紗弥

おかの・さや。2003年6月26日生まれ。上智大学国際教養学部国際教養学科在学中。
好きな映画は「湯を沸かすほどの熱い愛」(中野量太監督)、「ちはやふる」(小泉徳宏監督)。特技は英語、ラクロス、歌。趣味はドラマ・映画鑑賞、犬とのお散歩。

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