Y2K=2000年代のファッションやカルチャーが、Z世代の注目を集めています。映画もたくさんありました。懐かしくて新しい、あの時代のあの映画、語ってもらいます。
2024.7.28
不器用ながらも愛し続ける大切さを教えてくれる「猟奇的な彼女」
私がこの映画を初めて見たのは4年前、18歳の大学1年生の時。ちょうどコロナ禍真っただ中。緊急事態宣言が発令中の時である。4年ぶりに「猟奇的な彼女」を鑑賞することにした。
彼女の恋人になった人が守るべき10の心得
その1 女らしいことを要求してはいけない
その2 人を殴りまくるから酒は3杯以上飲ませないこと
その3 カフェではコーラではなくコーヒーを注文すること
その4 殴られたら痛くなくても痛いふりをすること
その5 会って100日目にはバラの花を1本講義室に届けること
その6 剣道を習うこと
その7 時々留置所に行く覚悟をすること
その8 殺すと脅された時は本当に死ぬ覚悟をすること
その9 足を痛がったら靴を交換してあげること
その10 シナリオを書くのが好きな彼女が書いた作品は面白くなくても褒めてあげること
「こんな彼女嫌だ!」と思うかもしれない。映画を見始めた直後の私も「自分がもし男でもこんな彼女は嫌だ!」と思ってしまった。しかし、この映画とともに2人の過ごした時間を共有した後の私はこの心得を聞いた瞬間、号泣していた。
ドタバタすぎる僕と彼女の日常
「2年前の今日、僕と彼女はタイムカプセルを埋めました」物語はのどかな風景と僕のモノローグでスタートする。しかし、そんな穏やかな状況からは一変し、僕と彼女のドタバタな日々を私は目撃することになる。
曲がったことが嫌いで、他人のことにも首を突っ込んでしまう厄介な性格の彼女と、それに振り回される心優しい大学生キョヌの日常が描かれている。電車にひかれそうになった彼女を助けたキョヌ。しかし彼女は電車の中で嘔吐(おうと)してしまったり、彼女を置いて帰れないと宿に寝かせてあげたと思ったら彼女にナンパ男に間違えられて留置所に拘束されたり……。彼女とキョヌの出会いは最悪だった。遊園地デートに行ったと思ったら脱走した兵士に人質にされたり、「30分以内に来ないと殺すぞ」と彼女に脅されまくったり、とにかく彼女に振り回されるキョヌ。しかしこんなドタバタな日常を送りつつも2人はだんだんひかれあっていく。
私は自分の彼氏が彼女のように自分勝手な人だったらどう思うか、キョヌの立場になって考えてみた。留置所に入るのは嫌だし、人質になるもの嫌だ。私は基本的に人に振り回されるのが大嫌いな性格である。でもこの映画を見終わった時の私は、こんな人が彼氏なら振り回されるのもありかもしれないと思っていた。そのくらい彼女は純粋で真っすぐで不器用だけど芯があり、それに振り回されるキョヌも不器用だけど誠実で彼女のことを一番に考えていて、実際に「こんな人がいたらいいな」と思わされるくらい心優しい性格をしている。
彼女の名前が物語に登場しない
私は気づいたことがあった。それは彼女の名前が物語の中で一切明かされないことである。この作品は主人公キョヌのモノローグで進んでいくのだが彼はその女性のことを「彼女」と呼び、自分のことは「僕」と呼ぶ。キョヌの名前は出てくるのに彼女の名前を明らかにしない理由を私は作品を見ながらずっと考えていた。
最後の最後にその理由がわかった気がした。キョヌが彼女をどれだけ愛していたのかが、彼女の名前を一切明かさなかったことに全てつながっていた。これはみなさんの目で見届けてほしいと思う。
4年前に見た時と今回見た後の心境の変化
私は映画鑑賞ノートをつけている。18歳の時にこの作品を見た時の感想には「何も考えずに見られる映画」と書いてあった。18歳の私を「そんなことないでしょ!」と一喝したい。今の私にはとても考えさせられる映画だった。もし2人みたいな恋愛をしたら人生がすごく豊かになるかもしれない、キョヌみたいな人に出会ったら、たとえ別れたとしても「彼に出会えてよかった」と確実に無駄ではない恋愛ができるだろうと思った。4年間で感じ方が変化し、少し大人になれたのかなとうれしくなったりもした。
作品のことが気になり調べてみたのだが、とある大学生がネット上の掲示板に書き込んだ体験談が原作とのこと。映画の中だけの作られたキャラクターだと思っていたが、実際にこんな彼女がいると知り衝撃を受けた。人を愛することの大切さを教えてくれるどの世代にもお薦めしたい作品である。
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