「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。
![「関心領域」© Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.](https://images.microcms-assets.io/assets/d247fcc9b85b413caf66458586629de0/bc489c7279844cd0a8ec44d76f3664ae/zone-of-interest_1.jpg)
「関心領域」© Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
2024.6.01
「関心領域」 〝見えていないもの〟示唆に身震い:英月の極楽シネマ
約80年前のポーランドでの、ルドルフ(クリスティアン・フリーデル)一家の物語です。彼らが住むのは、厳しい冬の寒さから守ってくれる暖房完備の立派な2階建ての家。夏には花が咲き誇る広い庭のプールで泳ぐこともできます。そんな一家に大きな変化が訪れたのは、夫の転勤がきっかけ。4年間住み続けた素晴らしい環境の家を離れることを拒む妻ヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)は、子どもたちとここに残ると言い張ります。と、今も日本のどこかで起きているホームドラマのような筋書きですが、違うのはルドルフがアウシュビッツ強制収容所の所長だということ。そして一家が住む家が、その隣にあるということです。
この映画は謎解きのようです。ささいな言葉、表現、小道具など、すべてが示唆的であり、見ている者に訴えてくるような力があります。収容者たちが苦しめられるような暴力は描かれませんが、映し出されるすべてが、映されていないものを浮かび上がらせています。例えば所長の家に暖房があるということは、収容所内にはないということを暗示していて、その過酷さに身震いします。
冒頭、ルドルフがお遊びで目隠しをされるシーンがあります。ここには現実に起こっていることだけでなく、自分自身が何者かということも見えていない、もしくはその両方を見ることを拒む気持ちが表されているのかもしれません。謎解きと言いましたが正解はなく、これは私の受け止めです。けれども、私も目隠しをしているのではないか? はたまた、自分自身を、そして物事を正しく見ていると思い込んでいないか? そんなことを問われた映画です。
東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほかで公開中。
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