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2024.6.26
娘のためにどうしてもやらないといかんことを、単にやっただけ「ディア・ファミリー」のモデル筒井宣政さんインタビュー
2週連続全国映画動員ランキング1位の「ディア・ファミリー」。その奇跡の実話のモデル筒井宣政さんが公開前に語ったインタビューです。「私は何も特別なことをしたわけではないんです」という筒井さんの「特別」な話しをお読みください。
簡単にお受けして
――映画化のお話がきたときは率直にどう思われましたか?
かれこれ20年以上のお付き合いのある原作者の清武(英利)さんのところに、東宝さんとWOWOWさんから映画化の話が行って、そこから私のところに話が来ました。私としては今までもテレビで5本くらい再現ドラマを作ってもらっていたので簡単にお受けして。そしたら手術室やクリーンルーム、救急車まで作っちゃうし、すごい俳優さんたちが出演されるし。映画がこんなに大ごとだとは思わなくて、当の本人もびっくりしています。
原作者の清武英利さん=下元優子撮影
標準語に直してもらったくらい(笑い)
――筒井さんから脚本にリクエストされたことはありましたか?
ほとんどありません。映画のプロたちの中に私が入っていくというのはあり得ないことなのでね。ただ最初の脚本は名古屋弁がかなり強調されていたので、「私はこんな方言は使わない」と言ってそこを極力標準語に直してもらったくらい(笑い)。あとは、病院側の描き方など支障のある部分もあるので、映画の方の名前は筒井ではなく、坪井にしてもらいました。まあ誰が見ても私の話と分かりますが(笑い)。
100年の友みたいな感じ
――ご自身役の大泉洋さんとは、撮影前にお話をされたそうですね。
名古屋の自宅まで来ていただきましたね。最初は緊張されているように見えましたが、うちの家族って皆ものすごく明るいんですよ。その雰囲気に大泉さんも巻き込んじゃって、当初は2時間の予定が4時間くらいいらっしゃいました。大泉さんから言われたことは、「筒井(坪井)宣政がどういう人なのか……明るい人なのか、怖い人なのか、その姿を見て、なるべく実際の筒井さんに沿うような演技をしたい。なので少しお話をさせてもらえませんか」と。私も何も隠すことはないから、ざっくばらんに話をさせてもらって、最後はもう100年の友みたいな感じになっていましたね。
「ディア・ファミリー」の初日舞台あいさつで、撮影への思いを語る大泉洋=東京都千代田区のTOHOシネマズ日比谷で2024年6月14日、手塚耕一郎撮影
俳優さんとは根性がいるお仕事だなあ
――実際の撮影現場にも行かれたとか?
行きましたよ。寒~い時期に! 大泉さんにも言ったんですが「あんなに〝カット〟〝カット〟って、同じシーンを何十回も撮っているけど、よく我慢できますね」と(笑い)。私から見たら何が悪いのか全然分からないですからね。大泉さんは「これが仕事ですから」と笑っていらっしゃいました。セットもすごかったし、しかもそれを季節ごとに作り替えて撮っていて本当に大変だなと思いました。俳優さんたちも寒い時期に夏の衣装を平気で着たりされていて。俳優さんとは根性がいるお仕事だなあと思いましたね。
こんなものまで作るんですか?
――人工心臓やバルーンカテーテルの製造過程も忠実に再現されていましたか?
まさか自公転回転成型機まで作ってしまうとは! 設計図通りではないけど、ほとんど私が言った通りにできていたし、パッと見はそっくりそのまま。思わず「こんなものまで作るんですか?」と言ってしまいました。月川(翔)監督がこれらの製造過程を描くことは「この映画の命です」という言い方をされていたのが印象的でした。
映画「ディア・ファミリー」について語る月川翔監督=東京都千代田区で2024年5月13日、幾島健太郎撮影
これをやらないと自分の子供が死んでいく
――完成作のご感想をお願いします。
物語は事実に忠実ですし、何より人の心に訴えるものがきちんと入ったいい映画だなと思いました。私は何も特別なことをしたわけではないんです。娘のためにどうしてもやらないといかんことを、単にやっただけ。大恥はたくさんかきましたが、これをやらないと自分の子供が死んでいくと思った時、「もう死になさい」って言える親はいないでしょう。「よくこんなことができましたね」と人は言いますが、自分の子供のことであれば当たり前だと思うし、やらざるを得なかっただけだと今も思っています。
筒井宣政
1941年生まれ、愛知県出身。64年に大学の経済学部を卒業後、東海高分子化学に入社。娘の心臓病をきっかけに全く縁のなかった医療の世界に足を踏み入れ、81年東海メディカルプロダクツを創立。89年、IABPバルーンカテーテルの初めての国産化に成功した。2002年黄綬褒章を受章。15年、EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパンで日本代表に選出された。現在の東海メディカルプロダクツは全身領域でさまざまな医療機器を開発している。
大動脈内バルーンカテーテルの駆動試験を指導する、「ディア・ファミリー」のモデルとなった筒井宣政さん(中央)=2003年、小林理幸撮影