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2022.6.21
G-1、CWU、MA-1?僕らを胸熱にしたトム・クルーズ「トップガン」ファッション ビンテージミリタリーファッションの世界
興行収入が全世界で8億ドルを突破し、トム・クルーズ史上最大のヒット作となった「トップガン マーヴェリック」。36年という驚きの年月を経ての続編となったが、トム演じるピート(コールサイン:マーヴェリック)は1ミリも色あせることなく、躍動感あふれる型破りな海軍パイロットで、前作を知る人も知らない人も十分に楽しませた結果といえよう。
1作目の「トップガン」が公開された1986年は、映画に加えて、ケニー・ロギンスが歌うオープニング曲の「Danger Zone」をはじめとするサウンドトラック、そして、トム・クルーズが劇中で着用した革のフライトジャケットのG-1が一大ブームを巻き起こした。このブームの裏側について、大手アパレルメーカー勤務経験もある、SKAバンド「SHOW-SKA」のリーダー兼バリトンサックスプレーヤー・塩原一央さんに語っていただいた。
ビンテージミリタリー大好き!
――塩原さんはビンテージミリタリーファッションに詳しいそうですが、まずはファッションとの関係性を教えていただけますか?
DCブランド全盛期にアパレル会社のJUNに就職し、DOMONというブランドで5、6年ほど勤めてから広告代理店に転職。その後、自分の代理店を立ち上げて、現在に至ります。洋服はずっと大好きで、加えて、大の映画好き。映画は物心ついた頃から好きで、その中でも戦争映画はよく見ていました。それでミリタリーファッションにも興味を持ったんです。
中学生の時に「大日本帝国」(1982年)という映画を見て、その中で三浦友和が着ている軍服がどうしても欲しくて、自分で作ったこともありました(笑い)。当時はビデオがなかったので、映画のパンフレットの写真からいろいろ想像して作ったんですけど、どうしても本物が欲しかったので、映画会社の衣装部に売ってくれと電話をして、譲ってもらいました。
――すごい情熱ですね!
今は難しいと思いますが、その時は譲っていただけました(笑い)。その軍服は宝物なので、今日はお持ちしていませんが、そのようにオタク的にミリタリーモノが好きですし、ビンテージミリタリーを大好きなファッションアイテムに取り入れたりもしています。ファッションとして着るときのこだわりは、ワッペンを貼らないこと。そして、コーディネートではガチなアメカジやコスプレにならないように、メンズドレスファッションに「トップガン」の香りを入れたハズシ技としています(笑い)。
祖父の形見分けのG-1
――お持ちのG-1はかなり古いものだそうですね。
中学時代に祖父が亡くなった時に形見分けでもらったものです。当時は詳しくありませんでしたが、そのあとに公開された「トップガン」を見たら同じものだったので、ミリタリーに詳しい先輩に聞いたら、20万円以上する高価なものだと言われて。それで調べてみたら、朝鮮戦争時代(1950〜53年)のものだとわかりました。
――「トップガン」でピートが着ているのと同時代のものなんですか?
そうです。G-1は、第二次世界大戦(1939〜45年)から現在まで採用されていて、最近の後期型はコストダウンのためか、あまりカッコ良くありません。
ピートが着ているG-1は彼のお父さんの形見の品で、朝鮮戦争時代からベトナム戦争時代前期(55年くらい)の間のものです。
この時代のG-1が硬い山羊革ゴートスキンの絶妙な革質と色、襟のボア、全体のシルエットなど一番カッコ良い仕様です。
――第1作公開当時は、G-1が大変なブームとなったそうですね。
実際に軍に支給しているAVILEX社が、映画公開当時にトップガン仕様のG-1を発売しました。しかし、そのG-1はかなりのオーバーサイズで革もポケットの仕様も違います。市販品のポケットは横から手が突っ込めるようになっていますが、海軍用は横から手を突っ込むと甲板で転んだ時に危ないのでポケットの口は上のみ。また、軍用は南洋の空で着るための革ジャンなので、日本の冬に着るとすごく寒いですが、市販品は綿が入っていたり、柔らかい羊革仕様だったりするので軍用より着心地が良い上に、めちゃ暖かいです(笑い)。
革のG-1の市販品と同じ5万円程度で売られていたCWU
――では、グリーンのCWUはいかがですか?
CWUは今回の「マーヴェリック」で冒頭以外、ずっと着ています。ナイロンのフライトジャケットですが、これは400°の熱でも焼けない耐熱素材を使っているため、かなり高価です。前作の時代では、当時の米軍最新式フライトジャケットで革のG-1の市販品と同じ5万円程度で売られていたので、みんな、ナイロンより革のほうを買っていましたね。それでG-1がはやったわけですが、並行してCWU採用前に使われていたMA-1(襟のないナイロンのフライトジャケット)が放出品として低価格で売られていたことで、そちらの方が大流行しました(笑い)。今、高価なCWUを購入する人は、ファッションというよりもマーヴェリックと同じものを買おうというコレクターノリのほうが強いように思います。
――1986年の「トップガン」公開時についてお聞かせください。
当時はジェット機による戦争映画が、クリント・イーストウッドの「ファイヤーフォックス」(82年)くらいしかなかった時代です。そこにサントラからしてカッコいい「トップガン」がやって来た。しかも予告ではトム・クルーズたちがビーチバレーをしているシーンもあったりして、青春映画なのかな?という印象だったので、より多くの人が劇場に足を運んだのではないかと思います。一方、戦闘シーン好きの僕のようなタイプも、すでに見た友人から最初とラストの戦闘シーンのすごさを聞いて映画館に向かいました。今、見ると少し物足りないかもしれないですが、当時は本当にすごい迫力だと思いました。
もう一度、見に行きたい!
――そこから36年ぶりの公開となった「トップガン マーヴェリック」はいかがでしたか?
オープニングから前作へのオマージュが盛り込まれていて熱くなりました! そして、トム・クルーズが主役なのにちゃんと引くところは引いていて、締めるところは締めている。嫌みゼロでクドさもなく、いいなと思いました。前回は軍モノと青春映画という二層構造が幅広い方に受けたと思いますが、今作は人間ドラマの延長線上にある飛行シーンが全てだったのではないかと思います。前作でもオープニングの「Danger Zone」後半の空母から飛び立つ際のカメラワークや、トムキャットで飛行しているシーンがすごかったですが、その時、トム・クルーズは映っていませんでした。しかし、今回はキャスト全員が空撮をしていて、機内の様子が映っていたので、トム・クルーズはそこに全力をかけたのではないかと思います。
――候補生全員が戦闘機に乗っている上に、機内に搭載したIMAXカメラをキャスト自身が操作して撮影したと聞きました。
そうなんです。しかもトム本人が操縦しているんですから、すごいですよね。前作のシーンが目に焼きついているぶん、新作は全編が本当にすごいなと思うので、もう一度行きたいと思っています(笑い)。それにこの映画はコロナ禍が落ち着くまで絶対に公開しないとトムが言っていましたが、迫力や音響など、全ての効果において大画面で見ておかないといけない作品。もう一度、見に行きたいと思っています。
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