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2022.9.15
インタビュー:ずーっと「魚が好き」 さかなクンの半生、作品に 映画「さかなのこ」
カラフルなハコフグを頭に「~でギョざいます」という独特の語り口で、魚について熱心に解説する姿が人気の東京海洋大名誉博士、さかなクン。自叙伝「さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!~」(講談社)を原作にした映画「さかなのこ」(毎日新聞社など製作委員会)が、公開中。
本人へのインタビューを通じ、「さかなクンがさかなクンになるまで」の不思議な魅力にあふれた物語を紹介する。(本文敬称略)
子供の頃からお魚に夢中だったミー坊は、母に見守られて伸び伸びと成長した。高校でも不良たちとお魚を通じて仲良しになり、卒業後もお魚の仕事をしようと模索するが、なかなかうまくいかない。だが、さまざまな出会いと優しさに導かれ、自分の思いを貫いていく……。
さかなクンは、幼い頃から絵を描くのが大好きで、最初はトラックやゴミ収集車などの「はたらくくるま」、次に「ゲゲゲの鬼太郎」で知られる水木しげるさんの妖怪に夢中になった。小学校2年の時、友達が描いたタコの絵に魅せられたことをきっかけに海の生き物に興味を持ち、近所の魚屋の店員と仲良くなって魚の話をして、休日は終日水族館で過ごし、授業中も魚の絵を描くなど、魚に夢中の毎日を過ごすようになった。さかなクンは、そんな幼少時代について「元々は絵を描くのが大好きだったのですが、魚は調べても、調べても、たくさんの仲間がいて、その多様性に夢中になりました」と振り返る。
さかなクンは小学6年の家庭学習で、魚釣りや魚の食べ方、飼育についてなど得意の絵で紹介する新聞を作った。「職員室で釣り好きの先生とかの話題になって、担任の先生から『新聞にしてごらん』と勧められました。教室に張り出されて、みんなが読んでくれて、魚にワクワクする気持ちを分かってもらえたのが、うれしくて、うれしくて……」と楽しそうに話す。
劇中で高校生になったミー坊は、ますます魚好きが進み、家ではたくさんの水槽で魚を飼い、海で釣りをする毎日を送る。不良少年たちと釣りを通じて仲良くなったり、学校でカブトガニを飼育し、非常にまれな人工ふ化に成功、新聞に取り上げられたりと、魚好きが高じていく。映画では、ミー坊にカブトガニの飼育を頼む教師役を中学、高校の同級生だった芸人の鈴木拓が演じる。「実際は中学時代で、先生が『飼ってみたら』と言ってくれたので人工ふ化もできました。その先生を演じるのは(鈴木)拓しかない、と思って監督にお願いしたら、『いいよ』って言ってくれました」と明かす。
高校生になったさかなクンは、バラエティー番組「TVチャンピオン」(テレビ東京系)の「魚通選手権」で優勝し、一躍人気者となって「魚博士になりたい」と思うようになったが、魚以外の勉強は苦手で、大学には進めなかった。魚にまつわる仕事をしようと、水族館やすし屋、ペットショップなどに勤めるが、なかなかうまくいかなかった。そんなとき、店主に勧められてすし屋の壁全面に描いた魚の絵が評判となって、テレビに出演するようになり、「さかなクン」が誕生する。「引っ込み思案な子供だったのですが、魚のことを一生懸命に伝えることが楽しかった。新聞もカブトガニも不良の子たちもテレビも、全部つながっています」と語る。
夢追う人を後押し
映画は、「子供はわかってあげない」などの沖田監督が、中学の同級生でもある脚本家の前田司郎と、映画「横道世之介」以来の共同脚本を担当、フィクションを盛り込んで、心温まるストーリーに仕上げている。
魚に夢中で不思議な魅力にあふれたミー坊を、性別を超えて演じるのんは「ミー坊のように、好きなことを追い続けて生きていたら、いいことがあるかもしれない。そういうポジティブなメッセージが感じられた。魚が好きという『人としてのミー坊』を演じた」とコメントしている。さかなクンは「大好きなのんさんが演じてくれると聞いて、『夢じゃないか』と思うぐらいうれしかった」と話す。
こうして「魚が好き」といういちずな思いを貫いてきたさかなクンを、一切否定せずにずっと見守り続けた母を井川遥が演じる。魚に夢中で勉強していないことを教師から注意されても、母は「魚が好きでいいじゃないですか、みんながみんな一緒だったら、ロボットみたいになっちゃいますよ」と言い切る。そんな母の愛について、さかなクンは「母には『自由に泳がせたら本当に〝さかな〟になっちゃったね』と言われています。母も試写を見て、井川さんの演技に感動し、ギョー(号)泣していました」という。
また、幼なじみでミー坊の理解者であるヒヨを柳楽優弥、モモコを夏帆が演じるなど豪華キャストが出演。劇中でふんだんに登場する魚の撮影については、さかなクン自身が監修。さらに、幼少期のミー坊と交流する魚好きだが、周囲に変わり者と思われている「ギョギョおじさん」役を演じ、登場時のBGMで高校時代から吹き続けているバスクラリネットも披露している。さかなクンは自身の演技と演奏について、「小学校の時に近所にいた怪しいおじさんをイメージして演じました。その怪しい感じにバスクラリネットの音色が合うんですよね」と見どころを語る。
さかなクンは映画を通じて、「好きこそものの上手なれ、と言いますが、自分が大切にしていることを宝物にして、ずーっと続けていくことが大事だということを感じてもらえれば」と力を込める。
決して優等生ではないが、「魚が好き」という思いを貫き、幼い頃からの夢だった「お魚博士」になったさかなクンの半生を、のんが天真らんまんな笑顔いっぱいで演じる映画「さかなのこ」。子供から大人まで、「好きなものは好き、それで人生は大丈夫」と背中を押してくれるような物語だ。
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