のん=北山夏帆撮影

のん=北山夏帆撮影

2022.10.23

インタビュー:のん コロナ禍で覚悟決めた「わたしは表現する人。目が離せませんよ!」

勝田友巳

勝田友巳

のんの勢いが止まらない。コロナ禍の閉塞(へいそく)の中、「表現者として覚悟を決めた」とパワーアップ。2022年はアーティストの古着をアップサイクルするファッションブランド「oui ou(ウィ・ユー)」を立ち上げ、初長編監督作「Ribbon」、主演した「さかなのこ」に続いて最新作「天間荘の三姉妹」も公開。毎日新聞のCMでも「伝えるって、つなぐこと、だと思う」と語りかける。女優・創作あーちすと、のんが丸ごと面白い。

 

やりたいこと追求

「コロナの最初の衝撃は薄まってるけど、モヤモヤが続くじゃないですか。ポッカリ穴が開いた気持ちが、解消されてない。その中で、やりたいという思いが強まって。いろんな自覚が芽生えた気がします」。自覚? 「自分は作りたい人なんだという自覚。『のん』になる時に、やりたいことを追求してメッセージを発信すると決めて、創作活動は続けてきましたが、それが実感を伴って、気持ちが固まりました」
 
「天間荘の三姉妹」は今年3作目の公開作だ。死んだ人の魂が、地上と天界の間で一時休息する三ツ瀬町。のんが演じるたまえは交通事故に遭ってここに来る。高橋ツトムの漫画が原作だが、物語の背景にあるのが東日本大震災だ。


 

「天間荘の三姉妹」死者の気持ちに思いはせ

「渡された原作を読んで、この物語が実現するならやりたいと思いました。びっくりしたのは、生きてる人ではなくて、亡くなった人の視線で語られること。わたしも残された人の話を聞いたりしてきましたが、亡くなった人たちがどう感じているか、想像が及んでいなくて」
 
印象的なセリフがあった。「突然失われたたくさんの命を、癒やす場所が必要だ」。「それがすごく腑(ふ)に落ちたんです。三ツ瀬のような所に魂がいて、残された自分たちを大切に思ってくれていると考えたら、止まった時間が動き出すっていうか、救われるんじゃないかなと」

 
「天間荘の三姉妹」©2022 髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

「元気を届けたい」震災への思い常に

出世作となったNHK連続テレビ小説「あまちゃん」以来、震災は常に心にある。「どう関わっていったらいいか、答えは出ないままなんですけど。やっぱり自分は演技者であり表現者。作品という形で、元気を届けることができればいい。復興が進んでいるといっても、被災された方、残された方たちにとっては終わってない。まだ続いてますよね。その中で、これからを生きてくための力になる作品になればいいなと」
 
無邪気で天真らんまん、明るい笑顔。「あまちゃん」以来、「さかなのこ」「天間荘の三姉妹」まで、そんな役柄を演じてきた。イメージの固定化は俳優にとって足かせになりかねないが、あえて違う役どころに挑もうとは思わないという。


 

イメージにあらがわず逸脱

「根っから明るいし健康なんで、自分と重なるっていうのもありますけど、あらがおうとしてないんで。病んでるとか色っぽいとかいう役を、イメージ払拭(ふっしょく)のためにやるのが得策だと思ってないというか。自分が何を求められているか、すごく考える。同時に、求められるイメージに沿いながら、同時にそこからどうやって逸脱するかも、ずっと考えています」
 
「天間荘の三姉妹」のたまえも、三ツ瀬では明るく振る舞うが、現世では孤独な人生を送り傷ついていることが次第に明らかになっていく。同じような境遇の優那と意気投合するものの、優那は濃い闇を抱えている。「たまえちゃんはコンプレックスも劣等感もある。傷ついた者同士、優那と友だちになるけど、心を病んだ優那とは違う。対比がある。その意味でも、やりがいがある思いました」


 

ずっと鏡見てる子だった

生来の目立ちたがり屋。芸能界入りしたのは「お洋服をいっぱい着られるとか、雑誌に載れるとか、そういう感じでした。自分大好きで、ずっと鏡を見てるみたいな子だったので、その延長線上にモデルがあった」。しかし俳優という仕事は視野になかったという。
 
「俳優の仕事の何が面白いか分かんなかったです。映画やドラマを見ても、ストーリーやキャラクターを追ってくだけ。でも、演技のレッスンを受けている先輩を見た時、演技はこうやって作るんだ、面白いな、やってみたいと思いました」
 

ダメなところも演技に生かせる

それが今では「100%自信がありますって言えるのは、演技ですね」というまでに。「コンプレックスや日常的にはダメなとこ、人と関わるうえでは邪魔になるような部分が、物語の中なら生かすことができる。それが演じている役に感情移入してもらえる要素になる。面白いですね」。まだまだ発展途上。「生きてる限り良くなっていきますよ。見逃せないと思います」
 
「全部の活動を、強調したい」。創作の多彩なフィールド、どこがホームグラウンドですか、と聞いたらこの返事。「ここを見てくれっていうのじゃなくて、のんを見てほしい。『のんって面白いよ』って言ってくれる人が、もっともっと広がってくれるといいな」
 
「天間荘の三姉妹」は10月28日公開。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

北山夏帆

きたやま・かほ 毎日新聞写真部カメラマン