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2022.10.30
いくつものおとぎ話をひもといて、善と悪の糸で愛を紡ぐファンタジー「スクール・フォー・グッド・アンド・イービル」:オンラインの森
もしもティーンエイジャーを指導する立場にあったら、映画感想文の課題にこの作品を選びたい。2人の少女が主人公のこの冒険ファンタジーは、あまたのおとぎ話を題材にしているため親しみやすく、いくつもの教訓やテーマがちりばめられていて、鑑賞者が何をキャッチするのかが気になるからだ。
「友情の力」や「善悪とは何か?」といった王道のテーマがある中で、筆者は「人間の本質と、社会における自身の役割の乖離(かいり)」というテーマが気になった。
とはいえ、エンターテインメントに触れるにあたり、テーマにとらわれてしまってはもったいない。キット・ヤングが一人二役で演じ分ける、リアム(善)とラファル(悪)の一騎打ちのアクションシーンで幕を開けるこのフェアリーテールは、2人の少女の〈スクール・フォー・グッド・アンド・イービル〉での日々。CGを駆使してファンタジックにつづる冒険譚(たん)は、何も考えなくても楽しめる。
おとぎ話の善と悪、それぞれの役を養成する魔法学校が舞台
スクール・フォー・グッド・アンド・イービルとは、おとぎ話の世界の善悪のバランスを保つために、主人公の善(ヒーロー&ヒロイン)と悪役を養成する魔法学校。「シンデレラ」「白雪姫」「ジャックと豆の木」などの登場人物はすべて、この学校の卒業生だ。
この学校に入学した2人の少女は、同じ村に暮らす親友同士。1人は、幼い頃に母親を亡くし、親戚の家でこき使われる日常にへきえきしていた白人のソフィー(ソフィア・アン・カルーソ)。おとぎ話が大好きで、シンデレラのようなプリンセスに憧れていた彼女は、村から出ていくことを夢見ている。
黒人のアガサ(ソフィア・ワイリー)は、「魔女の娘」と忌み嫌われていたが、母親の魔法は一度も効いたことがない。2人にとっては、一緒にいる時間が唯一の楽しみであり、お互いの存在が救いだった。
スクール・フォー・グッド・アンド・イービルの存在を知ったソフィーは人生を変えるために入学を切望し、その願いが聞き入れられる。アガサも巻き込まれて入学することになるが、なぜかアガサが善の学院に、ソフィーが悪の学院に振り分けられてしまう。
異議を唱えるアガサに教授が放つ「(人間の)本質はどうあれ、これが役割分担なの」という言葉は、今居る場所に居心地の悪さを感じている人たちに向けて、「諦めろ」と言うも同然の残酷なメッセージだ。しかし、ストーリーが進むに連れて、ソフィーとアガサにその役割が与えられた理由(=本当の自分)が明らかになっていく。
2人の少女の変化を衣装によって表現
2人の変化を視覚的に表現する衣装が素晴らしい。特に、悪役として覚醒したソフィーがゴシックなドレス姿でランウエーを歩くように闊歩(かっぽ)するシーンは、カットが変わるごとに衣装が変わり、眼福の極み。ビリー・アイリッシュの「you should see me in a crown」が、ダークなプリンセスの威厳を増幅する。
一方のアガサも、まったく似合わなかったピンク&花柄のドレスが、徐々に似合うようになっていく。そして善のアガサと悪のソフィーが戦って……という短絡的な展開ではないところに本作のユニークな魅力がある。人は与えられた役割にある程度順応はできるが、どうしても譲れない部分がある。それがむき出しになるクライマックスで、悪に立ち向かうアガサが「悪は自分のために戦い、善は仲間や愛のために戦う」とキメたとき、アガサは本作のヒーローになったのだ。
映画の品格を高める、語り部のケイト・ブランシェット
監督は、「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」(2011年)、「ゴーストバスターズ」(16年)、「シンプル・フェイバー」(18年)など、女性同士の親密な関係をさまざまな形で描いてきた信頼のフェミニスト、ポール・フェイグ。
彼の女性に対するまなざしには「女はこうであれ」というお仕着せがなく、常に敬意があふれており、本作でもソフィーとアガサの友情を超えた絆を貴いものとして描く。そして、男性キャラクターへの視線は批判的だ。
基本的に、善側も悪側も、男性のキャラクターはみなパッとしない。善の学院の人気者でヒーローのテドロス(アーサー王の息子でエクスカリバー所持者)が、クライマックスで完全に蚊帳の外に置かれて活躍の場を与えられなかったのは、正義を振りかざして無駄な戦闘を起こしたことへの、フェイグからのお仕置きに見えた。
教授陣には著名なベテラン俳優が集結した。学院長のローレンス・フィッシュバーンを筆頭に、悪の学院の教授レディー・レッソにシャーリーズ・セロン、善の学院の教授にケリー・ワシントン、ビューティー学の教授にミシェル・ヨーなど。
セロンが着こなす高い襟でシルエットがハンサムなコスチュームは、「シンプル・フェイバー」のブレイク・ライブリーを思い出す。そして「おとぎ話」を題材にした本作の語り部(ナレーション)はケイト・ブランシェット! 彼女のエレガントで知的な声が、映画の品格を高めている。
原作はソマン・チャイナニの初長編小説で、全6巻のうち、本作は第1巻を映画化した。続編を匂わせる終わり方なので、シリーズ化は大前提だろう。ソフィーとアガサの友情と冒険が楽しみだ。
Netflixシリーズ「スクール・フォー・グッド・アンド・イービル」独占配信中
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