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2022.9.18

大事な人を思いやりながら成長する10年を優しい眼差しで描いた青春群像劇「モアザンワーズ/More Than Words」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

ひとしねま

須永貴子

9月16日(金)より配信される、Amazon Original ドラマ「モアザンワーズ/More Than Words」は、漫画家・絵津鼓による漫画「モアザンワーズ」(幻冬舎コミックス)と、その後日譚(たん)である「IN THE APARTMENT」(大洋図書)が原作の、全10話のドラマシリーズ。愛し合う男性のカップルと、2人にずっと愛し合ってほしいと願う女性の、約10年間を描く。

京都を舞台に高校生から大人になる10年間をそれぞれの境遇と共に映し出す

舞台は京都。2014年4月、高校1年生の美枝子(藤野涼子)は、同級生の槙雄(青木柚)とある出来事をきっかけに仲良くなり、同じ居酒屋でアルバイトを始める。2人は、6歳上の先輩アルバイトで大学生の永慈(中川大輔)と仲良くなり、永慈の好意に槙雄が応える形で、2人は付き合い始める。

断定はされていないが、美枝子はおそらく他者に性的欲求を抱かないアセクシシュアルで、槙雄と永慈と3人で過ごす時間に、初めての居心地の良さを感じている。しかし、会社を経営する永慈の父親(佐々木蔵之介)が2人の交際に反対し、3人の関係が変化していく。

21年3月、槙雄は小学校の同級生・朝人(兼近大樹 EXIT)と10年ぶりに再会する。偶然同じアパートに暮らす2人の距離は徐々に接近していき・・・。

シングルマザーの母親からの愛情を感じられず、自己肯定感の低い美枝子。何もしていないのに人を魅了する快活な少年だが、将来の夢や目標がない槙雄。ゲイであることを誰にも話せず、しかも優しすぎるがゆえに、たくさんの言葉をのみ込んできた永慈。

それぞれの痛みを抱える若者3人が、そのタイミングで出会わなければここまで仲良くならなかったという吸引力のようなものが、彼らの掛け合いから伝わってくる。特に、毎話エンディング曲が流れる場面では、固定したフレームの中で、彼らのたわいのない会話や生活の風景が延々と続いていく。脚本通りなのか、インプロビゼーションなのか。いずれにせよ信じられないほど巧みな自然さで、美枝子と槙雄と永慈がそこに生きている。


長回しを有効に活用、キャラクターの感情を捉える秀逸なカメラワーク

撮影監督は、冨永昌敬監督の「南瓜とマヨネーズ」、沖田修一監督の「モリのいる場所」や「キツツキと雨」の月永雄太。ラストの長回しに限らず、撮影場所の情報や意味をきちんと収めつつ、キャラクターの感情を最優先して捉えるカメラワークがあるから、説明ゼリフを必要としないやりとりが成立しているのだろう。

監督は、デビュー小説の「スクロール」が北村匠海と中川大志のW主演で映画化され、23年に公開される橋爪駿輝。テレビプロデューサーやミュージックビデオの監督としての経験があるからか、これが連続ドラマ初演出とは思えない余裕すら感じさせる出来栄えだ。

俳優たちのインタビュー動画によると、何度もできない大事なシーンでは、テストは寸止めで本番一発撮り、そしてなかなかカットをかけないらしい。おのずとアドリブで芝居を続けることになるわけで、それを編集で切り落とさずにたっぷりと使えるのは、数分なら尺の増減が可能な配信ならではか。永慈が槙雄の髪をドライヤーで乾かすシーンや、永慈が3人にとって思い出の服を丁寧に畳むシーンなど、感情が伝わる長回しが実に秀逸だ。


キーマン役を演じた青木柚の瑞々しい演技は今後の活躍を予感させる

美枝子を真正面から捉えたショットで始まり、美枝子が槙雄と永慈に出会い、2人のためにある決断をし、ラストショットは彼女の背中。このことから導き出される本作の主人公は、間違いなく美枝子である。

だが、21年からのパートは、槙雄と出会う朝人の視点で描かれることからもわかるように、全体を貫く裏軸になるのは槙雄の存在だ。本人はそんなつもりはないのに、相手の懐にするりと入り込む人懐こさ。それが、朝人と出会う頃には、意図的に相手を振り回す小悪魔へと変貌している。

そして、ある決着をつけてからの、取り戻された高校生の頃の明るさと、大人としてのたくましさを兼ね備えた表情のネクストレベル感! 演じる青木柚の、瑞々(みずみず)しさと達者さが共存する演技に圧倒された。21歳の青木は、主演映画が3本公開待機中で、配信作品や地上波ドラマで引っ張りだこの実力派。今後の日本のドラマや映画を支える逸材である。

槙雄と永慈の恋愛ドラマで始まり、まだ何者でもなかった4人の若者が、大事な人を思いやりながら成長する姿を描く「モアザンワーズ/More Than Words」。登場人物(永慈の父親も!)はもちろん、彼らを見守る視聴者をも肯定する、優しさの塊のような青春群像劇だ。

Amazon Prime Videoにて独占配信中。

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ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

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