Netflixシリーズ「ナルコの神」独占配信中

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2022.10.09

ハ・ジョンウとファン・ジョンミンが初共演! 名優たちが演じる交渉シーンが熱い「ナルコの神」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

ひとしねま

須永貴子

韓国映画のスター、ハ・ジョンウ(「チェイサー」「哀しき獣」「1987、ある闘いの真実」他)とファン・ジョンミン(「新しき世界」「コクソン」他)の初共演が、Netflixの配信ドラマ「ナルコの神」で実現した。

「ナルコの神」は、南米で一番小さな国スリナムが舞台のクライム・アクション・サスペンス。麻薬の密輸に巻き込まれた民間人カン・イング(ハ・ジョンウ)が、韓国人麻薬王チョン・ヨハン(ファン・ジョンミン)の逮捕を目指す国家情報院に、スパイとして協力することになる。

オープニングで、「実話を基にしたフィクション」とテロップが表示されるように、チョン・ヨハンには、1990年代末からスリナムで麻薬密売組織を作ったチョ・ボンヘンというモデルがおり、民間人が国家情報院に協力したことも実話だという。


キャラクターの思惑が複雑に絡み合う、あっという間の6時間

全6話からなるこのドラマは、1話が約60分。映画にしても面白そうだし、もともとは映画の企画だったそうだが、ドラマにして大正解! さまざまな立場の人の思惑が絡み合う、先の読めないサスペンスという点では、「国家が破産する日」(2018年/114分)や「藁にもすがる獣たち」(20年/108分)に通じるものがある。

「ナルコの神」のユン・ジョンビンが監督し、ファン・ジョンミンが韓国から北朝鮮に潜入するスパイを演じた「工作 黒金星と呼ばれた男」(18年/137分)もその部類だろう。これらの作品は、複雑な駆け引きを2時間前後の尺に手際よく収めたがために、どうしても観客が置き去りにされてしまう部分があった。

特に「国家〜」は経済用語や経済情勢に詳しくない人はちんぷんかんぷん。筆者はお恥ずかしながら、鑑賞後にいくつかの資料に当たり、やっと全貌を理解することができた。


時間をかけて見せた交渉シーンで、実力派俳優たちの演技を堪能

この「ナルコの神」も、麻薬組織に潜入するカン・イング、麻薬王のチョン・ヨハン、国家情報院のチェ・チャンホ(パク・ヘス)の他、チャイニーズマフィアのチェン・ジェン(チャン・チェン)ら登場人物の建前と本音が複雑に入り組んでいるが、駆け足になる必要がないので混乱することがまったくない。

それを象徴するのが第5話だ。この回は、言い換えるなら交渉回。チョンとチェン、カンとチョン、カンとチェン、チェンとスリナム大統領が、密室でじっとりと交渉するシーンがそれぞれ丁寧に描かれている。

2時間の映画では、交渉の内容をどこまで手際よく観客に伝えるかが腕の見せどころになるが、本作では誰が二枚舌を使っているのかすら明らかだ。それはもろ刃の剣かもしれないが、実力派俳優たちの見ごたえのある芝居を存分に浴びるという、代えがたい喜びが味わえるのだ。

これはもちろん嵐の前の静けさでもある。その後には銃弾が飛び交い、韓国映画に欠かせない刃物が血に染まる、抗争シーンが展開し、最終的にはDEA(アメリカ麻薬取締局)や軍隊までもが介入する大捕物に。舞台が南米ということもあり、青い空、濃い緑が開けた場所にそびえ立つ麻薬王の大邸宅、建物がコロニアルスタイルのチャイナタウンなど、スケール感のあるロケーションも見どころだ。ちなみにロケ地はドミニカ共和国と済州島とのこと。


骨太な“クライム”“アクション”“サスペンス”好きにお勧め

ここでキャラクターと演じる俳優の魅力を手短にお伝えしたい。主人公のカン・イングは、エイを韓国に輸出するビジネスで一山当てようと、韓国からスリナムにやってきた民間人。出荷したエイに麻薬が仕込まれていたせいで収監され、国家情報院に協力せざるを得なくなる巻き込まれ型の主人公だ。頭の回転が速く、口が達者で、生き抜くことにけているのは、彼の生い立ちに理由がある。そんなタフな人物を、ハ・ジョンウが視聴者目線を逸脱することなく魅力的に演じている。

エイに麻薬を仕込んだのは麻薬王のチョン・ヨハンだ。彼はカン・イングの前に親切な牧師として登場し、徐々にその強欲で極悪非道な正体をあらわにする。ファン・ジョンミンがこれまで演じてきた役の集大成のようなキャラクターであり、本作は間違いなく彼にとっての代表作である。

事実とは異なるキャラ付けとして、チョンに牧師という仮面をかぶせたことで、このドラマはフィクションとしての自由度と強度を手に入れた。牧師を名乗ることで彼は信用を得て、カリスマ性を増し、己の欲望のままに突き進む。法や正義の下ではチョンが悪だが、チョンにとっては「俺を邪魔する者が悪(魔)」。最終話で、彼がカン・イングに「悪魔」と言い放った後に見せる、血まみれの悪魔のような笑顔はファン・ジョンミンの真骨頂だ。

ハ・ジョンウとファン・ジョンミンの初共演作として申し分のない仕上がりとなった「ナルコの神」。骨太なクライムアクションやクライムサスペンス、この記事内で言及したタイプの韓国映画が好きな人に、自信を持ってお勧めしたい。


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ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

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