「マッドマックス:フュリオサ」©️2023 Warner Bros.Ent. All Rights Reserved

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2024.5.28

ざっくり復習「マッドマックス」全5作 「フュリオサ」へと続くディストピアの「狂気」「カーアクション」

1979年に公開された「マッドマックス」は、その大胆な世界観と斬新なアクションでカルト映画の金字塔となりました。3部作でいったん幕を閉じながら、30年を経て奇跡的復活、スケールを拡大して世界を席巻しています。第1作から最新作「フュリオサ」まで、シリーズの全体像と影響を振り返ります。

ヨダセア

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ファン待望のシリーズ最新作「マッドマックス:フュリオサ」が5月31日、ついに日本公開となる。シリーズ5作目にして「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の人気キャラクター、フュリオサの過去を描く前日譚(たん)スピンオフである。全5作の概要や特色、魅力を振り返ってみた。


「マッド」に込めた熱気と怒り

作品ごとの振り返りの前に、シリーズ全体に共通する特色・魅力について、ふたつのキーワードをピックアップしたい。それは「カーアクション」と「狂気」である。

個性的な車両が数多く登場し、車をぶつけ合ったり、追ったり追われたり、車の上から中から銃を撃ち合ったり……。シリーズを通して、「大迫力のカーアクション」は大きな魅力となっている。我々はエンジン音と爆発音に包まれながら、いつ誰が命を落とすかわからないスリルに、手に汗握ってスクリーンに食いつくのだ。

そして「狂気」。狂っている様子を表すだけなら「crazy」や「insane」でも通用するが、タイトルにも使われている「mad」は「狂気」だけでなく「熱気」「怒り」をはらんだニュアンスも持つ単語だ。

シリーズ4作目「怒りのデス・ロード」の原題「Mad Max:Fury Road」に使われている「fury」という単語にも「激怒」のニュアンスがあるが、このシリーズではとにかく、車を爆走させることによる熱狂や、復讐(ふくしゅう)心といった怒りの感情によって狂気が加速していく。物語の展開に沿った狂気の加速は、どこか観客の中にある狂気も呼び起こすような感覚を生み、それがシリーズ全体を象徴する魅力となっている。

血で血を洗う復讐合戦 「マッドマックス」(1979年)


「マッドマックス」©1979 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

荒廃した近未来のオーストラリアを舞台に、特殊警察「M. F. P.」に所属する警官マックス・ロカタンスキー(メル・ギブソン)が凶悪な暴走族に対峙(たいじ)する。第1作の主軸になるのは、警察サイドと暴走族サイドの血で血を洗う復讐合戦だ。

冒頭から、「今から数年後」という字幕に心を奪われる。いつ今作を見ても、我々は〝数年後に近づくかもしれない未来〟を目撃することができるのだ。1作目である本作ではまだ〝完全に荒れ果てた〟というほどの世界観にはなっておらず、比較的現代に近い時代設定であるため、車のデザインも後の作品に比べると現代の一般的な自動車に近い。警察の拠点などを見ても、まともな建物が機能していることがわかる。

とはいえ社会の秩序はほぼ崩壊しており、公権力では抑えきれない程に暴力がまん延していることは明らか。傍若無人な暴走族への怒り、〝暴力とスピード〟でしか解決できない社会状況、そして大切なものを奪われていくことによる正気の喪失によって、沸々と狂気が煮え立っていく。まさに「Mad」な序章だ。


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マックスの狂気と恐怖にも向き合う

第1作で印象的なのは、主人公マックスの狂気にも真正面から向き合っているという点である。勧善懲悪の傾向が比較的強まる2作目以降に比べ、第1作ではマックスの「走り屋傾向」「怒り」「復讐心」に重点を置き、「警察という立場がなければ、暴走族とマックスには何ら違いがないのではないか」という疑問を投げかける。そしてマックス自身もその疑問を持っており、自分が狂気にのまれることを恐れているのだ。

シリーズを通して一貫した「車」と「狂気」というふたつの要素を、特に関連づけて描いているのも第1作。車をフルスピードで走らせるという非日常の解放感が狂気につながるといった描き方は「ワイルド・スピード」(2001年)も彷彿(ほうふつ)とさせる。暴走運転は一瞬の動作で死や殺人に手が届く体験であり、そのスリルに取りつかれてしまえば狂気は加速するだろう。

終始ここではないどこかを見つめているように見える主演メル・ギブソンの目も非常に印象的で、その眼光には「フュリオサ」でアニャ・テイラー=ジョイが演じたフュリオサにも通ずるものを感じる。

ディストピアをさまようヒーロー 「マッドマックス2」(81年)


「マッドマックス2」©1981Kennedy Miller Entertainment Pty., Ltd.©1981Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

前作はまだ〝現代に近い〟と述べたが、2作目の世界観は明確に荒れ果てる。冒頭から「2大国の戦争によって文明が崩壊した」という前提が明かされ、世界はすっかりディストピアと化しているのだ。

今作は、雄たけびを上げて車を走らせる暴走族、彼らのパンクな衣装や髪形など、いわゆる「世紀末」と言われる世界観を定義づけた作品のひとつ。そのディストピアの描き方は非常に独創的かつ魅力的で、日本の人気漫画「北斗の拳」(83年から)に大きな影響を与えたことでも有名だ。

前作では復讐の連鎖が主軸であったが、今作では世界の荒廃を背景にした「資源(石油)の枯渇と奪い合い」「暴力による搾取への抵抗」が主軸となる。マックスは暴走族やだまし討ちを狙う刺客から愛車(インターセプター)とその燃料を狙われながら、ひとり荒廃した世界をさまよう。


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後につながる描写も

彼と、石油精製所を拠点とする住民たちとの協力を描くことになる今作では、マックスはどこか〝人々を救う風来坊〟〝孤高の救世主〟のような描かれ方もしており、そのイメージはこの後も踏襲されていくように思える。他人には「我関せず」といった態度を取りながらも、結局その戦闘能力とドライビングスキルで人々を救うマックスの性格が、白熱のアクションシーンにつながるのだ。一方で1作目の「狂気と向き合うマックスの葛藤」といった要素は2、3作目では薄れる印象がある。

骨格だけで走る車が複数登場したり、人間を車の先頭にくくりつける描写があったりと、4作目「怒りのデス・ロード」へと向かう気配も感じさせる今作には、悪役ヒューマンガスによる(短いが)特徴的な処刑・拷問シーンが登場する。このシーンを覚えていると、最新作「フュリオサ」に登場する二つのシーンがセルフオマージュのように感じられ、より深く楽しめるかもしれない。

メル・ギブソン最後のマックス 「マッドマックス/サンダードーム」(85年)


「マッドマックス/サンダードーム」©1985 Kennedy Miller Entertainment Pty., Ltd. ©1985 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

荒野で自身の乗り物と装備品を奪われたマックスが3作目「サンダードーム」においてたどりつくのは、物々交換で成り立つ街「バータータウン」。マックスは自身の資産を取り戻すため、街の権力者に〝腕っぷし〟を貸すという取引を行い、街に潜入する。マックスをメル・ギブソンが演じる作品は今作で最後だ。

文明の崩壊が語られた2作目に続き、3作目のバータータウンでは新たに文明を築き、人々を支配しようとする一派の姿が描かれている。そこでは独自のルールや文化、産業が形成されており、タイトルにもある「サンダードーム」もそのひとつ。「2人入り、出るのは1人」。サンダードームは街でもめ事が起きた際に暴力で勝敗を決めるための決闘場だ。


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今作でもマックスは中盤でとある集落にたどり着き、〝神話に語り継がれる救世主〟のような扱いを受ける。今作の大きな魅力はこのように、文明崩壊を受けた「新たな文明の構築」「新たに生まれた宗教」といった世界観の形成を楽しめる点にあると言えよう。

荒野のカーチェイスといった〝お約束〟が今回もあるのはもちろん、4作目以降に登場する「ウォーボーイズ」を思わせるメークのキャラクターも登場するなど、ビジュアル面においても作品間のシームレスな歴史が感じられる。

醜悪な秩序に立ち向かう 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)


「マッドマックス 怒りのデス・ロード」©2015 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

3作目から30年もの時を経た4作目「怒りのデス・ロード」では、主人公マックス役をトム・ハーディ(「ヴェノム」シリーズなど)が引き継いだ。無口でハードボイルドなマックス、勇敢で荒々しい女性戦士フュリオサ(シャーリーズ・セロン)、独裁者に洗脳されていた特攻部隊のニュークス(ニコラス・ホルト)という個性的なチームが、独裁者イモータン・ジョーの一派に追われながら希望の土地を目指すことになる。

度重なる悲劇と狂気の蓄積からか幻覚と幻聴に悩まされているマックスは、荒野のカーチェイスの末、独裁者イモータン・ジョーが牛耳る砦(とりで)にとらわれ、「輸血袋」としてつるされてしまう。イモータン・ジョーの一派に支配された一帯には、世界崩壊後の無秩序とは異なり、完全なる秩序が存在するが、その秩序は残酷で醜悪だ。

イモータン・ジョーは枯渇した資源や燃料、武器だけでなく、人間すらもリソースとして支配する。男性は命を投げ出すよう洗脳された戦士「ウォーボーイズ」として使い捨てにされ、女性は若く美しければ「子産み女」、そうでなければ装置を取り付けられ母乳を搾取され、ほかの利用価値のない人々は砦にも入れず、スズメの涙ほどの水だけ与えられて痩せ細っているのだ。あまりの残酷さに顔をしかめながらも、この徹底された世界は非常に魅力的で感心してしまう。

女性戦士の新しい風

そして、その〝醜悪な秩序〟に立ち向かうのが、後にスピンオフも作られることになる「フュリオサ隊長」だ。彼女はイモータンからも信頼を置かれ、男性だらけのウォーボーイズの上に立つ作中唯一の女性戦士である。彼女はその立場を利用し、裏切ることを決意。自身の故郷「緑の地」を目指し、「子産み女」たちを連れて逃亡計画を決行。当初それぞれが敵同士だったマックス、ウォーボーイズのニュークスとも協力関係になっていく。

過去作でも女性の戦士や支配者は登場したが、「マッドマックス」シリーズにおいてフュリオサほど戦士・救世主としてのリーダーシップやアクションを見せた女性キャラクターはいなかった。ハードボイルドな男性主人公や半裸でモヒカンヘアの暴走族といったイメージが強かったシリーズに、フュリオサの存在は新しい風を吹かせたのだ。

設定と物語だけでなく、カーアクションやカーデザインに関しても、今作は過去一番の奇抜さを見せた。巨大なスピーカーを積んだ車でギターをかき鳴らしているだけのキャラクターがいたり、ハリネズミのような装甲車が登場したりと、ビジュアル面においても一切飽きさせることがない。

目力生かしたアニャ・テイラー=ジョイ 「マッドマックス:フュリオサ」(24年)


「マッドマックス:フュリオサ」©️2023 Warner Bros.Ent. All Rights Reserved

「怒りのデス・ロード」で大活躍したフュリオサは、いかにして〝緑の地〟から誘拐され、母親を失い、そしてイモータン・ジョーに信頼される隊長の座についたのか。それを描くのが、「マッドマックス:フュリオサ」だ。

シャーリーズ・セロンが演じたフュリオサの過去を演じることになったのは、「スプリット」「ラストナイト・イン・ソーホー」などで知られるアニャ・テイラー=ジョイ。その大きな目を生かした「視線とたたずまい」による演技は、口数も少なく、黒塗りメークや顔に巻いた布によって表情も読み取りづらいフュリオサの感情を見事に訴えかけた。既に海外レビューでも大絶賛されている彼女の演技は、キャラクターの名を冠した今作のタイトルにふさわしいクオリティーをもたらしている。

そしてもうひとりのキーパーソンが、フュリオサを幼少期に誘拐したバイカー集団のヘッド、ディメンタス将軍だ。彼を演じたのは、「マイティ・ソー」「アベンジャーズ」シリーズなどの雷神ソー役でも有名なクリス・ヘムズワース。クレージーだがどこか哀愁も漂う、多層的な魅力をもったビラン、ディメンタス将軍。その演技によって善玉役のイメージを軽々飛び越えた、ヘムズワースの存在感にもぜひご注目いただきたい。

過去作を見直したくなること請け合い

さらに今作は、スピンオフとしてのファンの期待にも大きく応える。監督自ら前作におけるフュリオサの物語に愛とリスペクトをささげ、さらに前作に言葉だけ登場した要素をビジュアライズしたり、イモータン・ジョーらが牛耳る砦の内情が描かれたりと、世界観の拡大、拡充が行われるため、改めて過去作(特に前作)を見直したくなるのだ。しかも〝フュリオサのはじまりの物語〟として単独でも楽しめる内容となっている。もし初心者として今作を楽しんだなら、すぐにそのまま「怒りのデス・ロード」を見たくなることだろう。

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ライター
ヨダセア

ヨダセア

フリーライター。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(X・Instagram)やYouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」においても映画や海外ドラマに関する情報・考察・レビューを発信している。

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