毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.5.31
この1本:「マッドマックス:フュリオサ」 喜寿何の、やりたい放題
前作「怒りのデス・ロード」で主役のマックス以上に活躍したフュリオサを主人公とした前日譚(たん)。フュリオサは、独裁者イモータン・ジョーに反旗を翻し、男児を産むためにとらわれていた女たちを救い出した女戦士である。
「怒りのデス・ロード」から20年ほど前。フュリオサは女たちが支配する〝緑の地〟から、ディメンタス(クリス・ヘムズワース)が率いるバイカー軍団に連れ去られる。ディメンタスはイモータン・ジョーに挑み、2大勢力が対立する。フュリオサはイモータン・ジョーの下に潜り込み、ディメンタスへの復讐(ふくしゅう)の機会を待ちながら男を装って地位を上げていく。やがて両勢力が全面対決の時を迎えた。
世界消滅後の砂漠で水と燃料を支配する暴君が割拠する終末世界の、文字通り〝ノンストップ〟アクション。何しろアクション場面のほとんどは砂漠を爆走する大型トレーラーの上。併走する奇怪な改造車とオートバイに加え、今作では空からも参戦。オートバイに乗っていた戦闘員がパラシュートを開いて飛び上がり、空襲に転じるという離れ業。セリフは無用、高速で走る車両が次々と転倒、爆発しながら追いつ追われつの迫力は、映画的興奮に満ちている。
それだけならば派手だが大味なB級作品にとどまるところ。主人公フュリオサの強烈さが、作品の格を押し上げる。シャーリーズ・セロンが演じた前作では、男性の支配下から女性を解放する闘士。アニャ・テイラー・ジョイが演じる今回のフュリオサは、母親を奪い、自分の人生を踏みにじった暴君への怒りをたぎらせる。きゃしゃな体から放つオーラが圧倒的だ。
そしてクライマックス、フュリオサとディメンタスの一騎打ちで語られるのは、憎悪の行き着く先だ。1979年の第1作からこの第5作まで、一貫して手がけるジョージ・ミラー監督。ムチャクチャのやりたい放題を加速させる一方で、人間の暴力性をしかと見つめる視点はますます強固。喜寿を過ぎてこのエネルギー、恐るべし。しかも続編もありそうなのだ。2時間28分。東京・丸の内ピカデリー、大阪・ステーションシティシネマほか。(勝)
ここに注目
前作と同じ世界観で繰り広げられる前日譚だけに、一部のアクションシーンなどに既視感を覚えることは否めない。しかしフュリオサというキャラクターの原点が凝縮された少女時代の冒頭シーンから目を奪われ、その後の苦難と変容の軌跡をたどるストーリーも魅力的だ。それに何より前作のシャーリーズ・セロンとは似ても似つかぬアニャ・テイラー・ジョイの演技が素晴らしい。セリフはほんのわずかだが、フュリオサの内なる怒りや決意をひしひしと伝えてくる彼女の〝瞳〟の強さは身震いするほどだ。(諭)
ここに注目
それぞれのキャラクターを表す、砂漠のなかのカーアクションの迫力と見応えはミラー監督作品ならでは。それに加えて今回は、15年以上にわたる物語を丁寧に描き出している点に、シリーズとしての新鮮さがある。なぜフュリオサが〝最強の戦士〟になったのかをじっくりと解き明かし、戦う女たちの思いを描いた前日譚を目にして、すぐにまた「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を見たくなる人も多いのではないだろうか。極端にセリフが少なく、目力で全てを語り切るアニャに、終始引き込まれる。(細)