「リラックマと遊園地」

「リラックマと遊園地」

2022.8.28

次のエピソードを再生せずにはいられない仕掛けで、全エピソードの2時間超を最後まで見せ切る「リラックマと遊園地」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

ひとしねま

須永貴子

2019年にNetflixで配信された「リラックマとカオルさん」は、サンエックスの人気キャラクター「リラックマ」を、ストップモーション・アニメーションで描いた全13話からなるアニメシリーズだ。その続編となる「リラックマと遊園地」の全8話が、8月25日より全世界一斉配信されている。


リラックマたちが遊園地で過ごす1日を描く「リラックマと遊園地」

 
「リラックマとカオルさん」は、東京に暮らすアラサーのOLカオルさんと、彼女のアパートにいつの間にか住み着いたリラックマ、コリラックマ、キイロイトリとの12月をほのぼのとつづる、1話完結のエピソード集。

同じアパートに暮らす少年トキオとの交流や、カオルさんの宅配業者・ハヤテへのほのかな恋心なども描かれる。そして今回の「リラックマと遊園地」では、カオルさんとリラックマたちが、遊園地・ナカスギランドで過ごす1日を描く。
 
商店街の福引で、特別賞を引き当てたリラックマ。景品は、閉園が決定している地元の遊園地、ナカスギランドの招待券だ。食いしん坊のリラックマのお目当ては、一緒にもらったスタンプラリーでもらえるスペシャルホットケーキ。カオルさんはリラックマ、コリラックマ、キイロイトリ、そしてトキオを引率しつつ、トキオの親戚でもあるハヤテとの昼ごろからの合流に胸をときめかせている。

ところが、遊園地の入り口で早速トラブルが発生してしまう。カオルさんがハヤテのために腕をふるって作ったお弁当と、コリラックマが持ってきたラジオコントロールのリモコンが入ったバッグを、バスの中に置き忘れてしまったのだ。先に園内に入ったリラックマ&ケンジ&キイロイトリと、お弁当を取りに戻るカオルさん&コリラックマは、想定外のハプニングに巻き込まれていく。果たして彼らは無事に合流できるのか?
 

独創的な造形デザインとカメラワークの秀逸さで遊園地を疑似体験


本作は、気の遠くなるようなこま撮りの作業によって生み出される、ストップモーション・アニメーション。前シリーズに続き、「どーもくん」や「こまねこ」などでも知られるスタジオ・ドワーフが制作し、監督は小林雅仁が務めている。

ふわふわ感のあるフェルトで作られたリラックマとコリラックマ、キイロイトリは人間の言葉を話さず、うめいたり鳴いたりするだけだが、目を細めたり口を三角にしたりと表情豊か。遊園地の乗り物に酔ってしまったり、ジャングルクルーズのワニにプルプルと震えたりといった人間くささに、どんどん愛着が湧いてしまう。

また、遊園地が映像作品の舞台になることは珍しくないが、ナカスギランドはマカロンの観覧車、デコレーションケーキのメリーゴーランド、シュークリームのステージといったように、園内の造形物がお菓子をモチーフにデザインされていて独創的だ。リラックマたちがゲートをくぐったときの迫力のショットからカメラワークが秀逸で、視聴者もナカスギランドを疑似体験できる映像になっている。


ヨーロッパ企画の角田貴志と上田誠が脚本を担当した群像劇のドラマ

 
脚本を手掛けるのはヨーロッパ企画の角田貴志と上田誠。リラックマたちのストーリーの他に、遊園地で働く気弱なピエロの青年、人材不足のため掛け持ちで働くスタッフのお姉さん、遊園地のアイドル・スズネ(衣装デザインがお菓子モチーフ!)、遊園地を愛するベテランメカニック、クセの強い園長、そして来園者のプロゲーマーを目指す少女エミリと両親たちそれぞれの、ドラマが描かれる群像劇の形になっている。

そして、遊園地に降り掛かったあるトラブルを、みんなの力を合わせて解決すると、それまで断片的だったナカスギランドの全体像が、初めて一枚絵で画面に映し出される。いくつもの人生が交錯する瞬間を、遊園地という舞台装置を最大限に生かして表現した、本作のピークとも言える素晴らしいカットだった。
 

 

プラットフォームのフォーマットを生かした巧みな脚本で得られる満足感


「リラックマと遊園地」の尺は、トータルで120分超。もしも1本の映画として劇場公開された場合、リラックマやアニメーションに興味がない層に、劇場に足を運んでもらうのは至難の業だろう。

ところが、配信ならそのハードルはグッと下がる。本作は全8エピソードからなっており、各エピソードは約15分で、第1話はたった10分。「とりあえず見てみるか」と第1話の再生さえしてもらえば、本作には視聴者を最終話まで一気に連れて行く力がある。

なぜなら、各エピソードのエンディングに、次のエピソードが猛烈に気になる仕掛けが施されているため、「次のエピソードを再生」せずにはいられないのだ。配信というプラットフォームを前提にした、巧みな脚本の作り方といえるだろう。そして最終話を見終えたときにはきっと、映画を1本見終えたときのような満足感とカタルシスを得られているはずだ。
 
Netflixシリーズ「リラックマと遊園地」独占配信中

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ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。