「リバー・ランズ・スルー・イット」の一場面

「リバー・ランズ・スルー・イット」の一場面

2022.8.22

俳優生活35年 ブラッド・ピットの衰えぬ魅力を解析:さまざまな角度からの美しさを楽しめる作品たち

俳優デビューから35年、トップスターであり続けるブラッド・ピット。最新主演作「ブレット・トレイン」の公開に合わせ、その変わらぬ魅力を徹底分析。映画人としてのキャリアの変遷、切り口ごとのオススメ作品、人柄を感じさせるエピソードと、多面的に迫ります。

新谷里映

新谷里映

ブラッド・ピットに恋した瞬間は、いまでも鮮明に覚えている。29年前、「リバー・ランズ・スルー・イット」(1992年)を映画館で見たときだ。しかしながら、見に行ったきっかけはブラピではなく、もともとロバート・レッドフォードのファンで、彼の監督作品という理由で選んだ作品だった。
 

「リバー・ランズ・スルー・イット」
 ©1992 BY ALLIED FILMMAKERS, N.V. All Rights Reserved.

「リバー・ランズ・スルー・イット」での鮮烈な笑顔

 
「リバー・ランズ〜」は、ノーマン・マクリーンの小説「マクリーンの川」の映画化。モンタナ州の雄大な自然の美しさと、フライ・フィッシングを通じて描かれる家族と兄弟の愛と、若き日のレッドフォードか?と見間違うほどレッドフォードに似ているブラピ、驚くほど美しいブラピに心を奪われた。特に、クライマックスのシーン。父と兄が見守るなかで大きなマスを釣り上げたときのあの笑顔は、自身のなかでの“ブラピスマイル”の原点になっている。
 

(C)2001 BEACON COMMUNICATIONS,LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 

監督ロバート・レッドフォードによって光を浴びることになったブラッド・ピット。9年後の2001年に、この2人は「スパイ・ゲーム」で初共演することになる。諜報(ちょうほう)員として、ベテランが若者に教えるというその構図は、そのままレッドフォードとブラピの関係性にもつながるようで、「スパイ・ゲーム」も特別な一本だ。
 

「ジョー・ブラックをよろしく」
(C)1998 Universal Studios. All Rights Reserved. 

汚れ役が続いたその先のブラピスマイル

 
「リバー・ランズ〜」を機に、レッドフォードだけでなくブラピも追いかけることになるわけだが、次なるブラピスマイルと再会するのは、少し先だった。というのも「リバー・ランズ〜」の直後は「カリフォルニア」(93年)や「トゥルー・ロマンス」(93年)など、いわゆる汚れ役が続くからだ。本人の意向かどうかは分からないが、美しさに注目の集まる俳優というのは、美で評価されるのではなく芝居で勝負したいと思うのだろうか、ブラピに限らず美しき俳優が汚れ役を好んで選ぶことは珍しくない。
 

 
ロン毛に無精ひげ、そこからにじみ出てくる色気もたまらないが、ファンとしてはやはり「リバー・ランズ〜」のあのブラピスマイルを心待ちにしているわけで。だからこそ「ジョー・ブラックをよろしく」(98年)と対面したとき、どれだけ心が躍ったことか。
 
第19回ゴールデンラズベリー賞最低リメイク及び続編賞にノミネートされてしまった作品ではあるが、女性目線で言わせてもらうのならば、街角で運命的に出会った男と女が、再び運命的に出会うまでのラブストーリーであり、しかも心も見た目も美しい青年の体をジョー・ブラック(=死に神)が借りて人間の心を学ぶ、何ともすてき映画。
 
ブラピをめでる映画として上位だと思っている。初めてピーナツバターを口にしたときの、ジョーとしての、あのブラピの表情にときめかない女性はいないはずだ。
 

「ファイト・クラブ」
© 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ディズニープラスのスターで配信中 

「ファイト・クラブ」「トロイ」でストイックに鍛え上げられた肉体美

 
ブラピの代表作は?と聞かれたら、どのタイトルを挙げるだろうか。おそらく「セブン」(95年)と並んで挙がるであろう「ファイト・クラブ」(99年。どちらも監督はデビッド・フィンチャー)。
 
この作品でブラピが演じたタイラー役には、格好良さ、チャーミングさ、コミカルさ、暴力的なイカれ具合、そして肉体の美しさ、ブラピファンが欲しているすべてが盛り込まれている。鍛え上げられた肉体、見た目としてのたくましさと美しさはもちろんだが、その肉体を作り上げるまでにどれほどの努力があったのか──徹底的な役づくり、俳優としての姿勢にほれた作品でもある。
 

「トロイ」
© 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. 

その後も「スナッチ」(00年)で素手ボクシングのチャンピオン役を演じているが、「ファイト・クラブ」を超える肉体を披露しているのは「トロイ」(04年)だ。ギリシア神話に登場する最強戦士アキレスを演じている。この映画におけるアキレスは、どこから切り取っても完璧なヒーローであり、そのキャラクターはブラピにぴったりなのだが、当時の記事を調べてみると、ヒーロー感が重視されすぎてストーリーに深みが足りなかった──というニュアンスのコメントも目にする。
 
とは言っても、完璧なヒーローを演じたブラピは、まぎれもなくアクションスターだ。そして、この「トロイ」での経験によって、ブラピは映画におけるストーリーを重視するようになったと言われている。それはフィルモグラフィーを見てもうかがえる。大作でなくとも良作を届けたい、その思いが伝わってくるひとつが「ジャッキー・コーガン」(12年)。
 

 「ジャッキー・コーガン」
(C)2012 Cogans Film Holdings, LLC. All Rights Reserved.

「ジャッキー・コーガン」でのひと言では言い表せない魅力

 
殺し屋を主人公にした映画は数多く作られているが、この映画の何が新しかったのか──。すご腕の殺し屋ジャッキー・コーガンの特徴は、圧倒的なクールガイで、殺しの世界でのカリスマ性があって、殺す相手を思って“優しく殺す”。格好良さのなかに人間味というかおちゃめさというか、ひと言では言い表せない“らしさ”が見えるのだ。
 
殺し屋という設定を除けば、カリスマ性、格好良さ、人間味というのは俳優ブラピにも通じる要素であり、年齢を重ねたブラピの美しさをめでるのであれば、このジャッキー・コーガンも見逃してほしくない一作だ。
 

年を重ねるごとに進化する美しさ

 
約30年間ブラッド・ピットを追いかけてきて思うのは、年を重ねるたびに美しさも変化し、しかも過去で演じた美しさを繰り返さない俳優であるということ。また、彼自身が求める内面的な美しさも当然あって、それはキャラクターを創り上げる、役と向きあうことで生まれる美しさであり、物語を掘り下げる、より良い作品を作るための覚悟という名の美しさでもある。
 
我々は、彼の進化する美しさに惹(ひ)かれているのではないかと思うのだ。もちろん、最初に恋に落ちたブラピスマイルも進化している。現在58歳のブラピの最新作「ブレット・トレイン」にも、進化したブラピスマイルがしっかり刻まれていた。
 
 
<画像使用の作品一覧>

●「リバー・ランズ・スルー・イット<4Kリマスター版>」
好評発売中
BD:税込¥2,750/DVD:税込¥2,090
販売:キングレコード


●「スパイ・ゲーム」
好評発売中
ブルーレイ:¥5,280(税込)DVD:¥3,080(税込)
発売・販売元:ギャガ


●「ジョー・ブラックをよろしく」
好評発売中
ブルーレイ:¥2,075(税込) DVD:¥1,572税込
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント


●トロイ
好評発売中
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント


●ジャッキー・コーガン
DVD&Blu-ray好評発売中
ブルーレイ ¥1,800(税抜) DVD:¥1,200円(税抜)
発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング

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ライター
新谷里映

新谷里映

しんたに・りえ 雑誌編集者を経て現在はフリーの映画ライター、コラムニスト。雑誌・ウェブ・TV・ラジオ、各メディアで映画紹介をするほか、コラムの執筆、映画のオフィシャルライター、東京国際映画祭やトークイベントのMCなど幅広く活躍。
解説執筆した書籍「海外名作映画と巡る世界の絶景」発売中。連載は「mina」「NYLON.JP」「charmmy」など。
voicyにて「シネマのなかに見えるもの」配信中。