毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.11.06
「パラレル・マザーズ」
共に想定外の妊娠をした写真家ジャニス(ペネロペ・クルス)と17歳のアナ(ミレナ・スミット)が病院で出会い、同じ日に女の子を産む。その後、ジャニスはセシリアと名付けた娘を育てるが、DNA検査で彼女が実子ではないことが判明。病院でアナの娘と取り違えられたのではと疑ったジャニスは、偶然にもカフェでアナと再会し……。
スペインの名匠ペドロ・アルモドバル、お得意の母もの映画。世代の異なる2人の母親が織りなす人生の数奇なめぐり合わせを、いつもながらの起伏に富んだストーリー展開、鮮やかな色づかいの映像美で紡ぎ上げた。クルス(第78回ベネチア国際映画祭女優賞を受賞)が体現した母親の葛藤と決断のドラマも胸に迫ってくる。
しかしスペイン内戦の暗い記憶に触れたもうひとつの重要なプロットとの乖離(かいり)が否めず、2本の映画をひとつにまとめたような違和感が残る。さすがの見応えだが、アルモドバルのベスト更新とはならなかった。2時間3分。東京・Bunkamuraル・シネマ、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)
ここに注目
年齢の差を超えて結びつく2人の母親の物語を、終盤でももっとじっくりと掘り下げてほしかったという消化不良感が残る。クルスの美しさと、アルモドバルとタッグを組んできた美術監督、アンチョン・ゴメスが生み出す鮮やかな色合いを楽しんだ。(細)
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