毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.11.06
この1本:「犯罪都市 THE ROUNDUP」 愛嬌ある巨漢が豪快に
スタローンもシュワルツェネッガーもドウェイン・ジョンソンも、アクションスターはまず肉体ありき。映画の真ん中にその体があって画(え)になることが、第一条件だ。韓国から現れたマ・ドンソク、世界に通用する存在感である。
いわゆる肉体美とはちょっと違う。幅と厚さが同じくらいの上半身、文字通り丸太のような腕、その上に乗ったコワモテにも愛嬌(あいきょう)たっぷりにもなる顔。少年漫画の武骨なギャグ系のヒーロー風で、暴れっぷりの荒唐無稽(むけい)さも漫画のよう。
しかしそれだけでは映画にならない。非現実的な強さを本物らしく見せるのは、韓国映画界のスタッフ力だ。彼の肉体を素材としてフル活用するために技を凝らす。特にアクションの場面では、構図に凝り、時に遠近感を強調しスピード感をあおって、動きの全てがかっこいい。
本作は、2017年にヒットしたアクション映画の第2作。スケールアップはしたが物語は単純明快。マ・ドンソク演じる、クムチョン警察署強力班の副班長マ・ソクトは、ベトナムで自首した韓国人犯罪者の身柄を引き取るために、班長のチョン・イルマン(チェ・グィファ)と現地に向かう。ベトナムで頻発する韓国人誘拐事件の首謀者がカン・ヘサン(ソン・ソック)と突き止めたマ・ソクト、猛然と後を追う。
韓国アクションは銃器に頼らず、白兵戦が主体。気は優しくて力持ちマ・ソクトがゲンコツと腕力で相手をねじ伏せるのに対して、カン・ヘサンは凶暴で残酷、オノやらナタやら刃物を振り回して暴れ回る。陽と陰が要所でぶつかり合いながら、韓国での最終決戦へともつれ込む。映像も物語もマ・ドンソクを中心に緩みなく、全編見せ場だけ。韓国では1000万人を動員する大ヒットとなった。1時間46分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)
ここに注目
本作には登場人物の個人的な背景とか、くよくよ悩んだりする〝ドラマ〟が一切ない。悪党の無軌道な暴走や仲間割れ、それを追う警察チームの奮闘がストーリーをめまぐるしく動かし、行く先々で激烈な攻防が繰り広げられていく。これほどまでにポリスアクションというジャンルの面白さを満喫させてくれる快作は、近年まれではないか。韓国映画らしくナタなどの荒っぽい凶器を用いたえぐい描写も満載だが、マ・ドンソクがふりまくユーモアが血生臭さを中和。笑っちゃうほど豪快なクライマックスの暴れっぷりにも脱帽です。(諭)
技あり
チュ・ソンリム撮影監督は、広角レンズで大活劇を撮った。最初の現場は、包丁で威嚇する男が人質と立てこもる店先。強力班の警官たちは、マ・ソクト副班長を待つ。広角レンズの画面を埋めるようにマ・ソクトの幅広い背中が現れ、大きい顔と分厚い体を見せる。隠密突入は巨体のせいで失敗。しかし男を「ワンパンチアクション」で片づける。スピード感と痛快さで引っ張り、適度に官僚を揶揄(やゆ)しながら、カン・ヘサンをバスの外に投げ飛ばすまで一直線に突っ走る。山場のバス内の乱闘で、車体が揺れたら迫力が増したのに、残念。(渡)
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