東宝本社の歴代ゴジラのポスターの前の岸田一晃 撮影:下元優子

東宝本社の歴代ゴジラのポスターの前の岸田一晃 撮影:下元優子

2024.6.18

大ヒット公開中「ディア・ファミリー」プロデューサーが第96回アカデミー賞視覚効果賞受賞「ゴジラ-1.0」を振り返る「自由度と日本映画の未来」

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鈴木隆

鈴木隆

第96回米アカデミー賞視覚効果賞を受賞した「ゴジラ-1.0」は、日本映画がアニメだけでなく実写作品でも興行、クオリティーの両面で世界に通用することを強く印象付けた。プロデューサーとして企画、製作のみならず、アカデミー賞という舞台でロビー活動や選考への対応、興行など世界規模の映画製作とその側面を体験してきたのは東宝のプロデューサー、岸田一晃だ。最新作「ディア・ファミリー」でも自身初の実話の映画化でその手腕を発揮している。

岸田は昨年10月以降、何度も渡米。アメリカでの興行とアカデミー賞の現場を見てきた。「アカデミー賞にかかわるさまざまな体験、視点、発想の転換など学ぶべきことばかりだった。受賞までの5カ月間が2年ぐらいに感じられた」と濃密な経験だったことを明かした。映画製作を統括するプロデューサーとして、日本映画の将来に通じる経験の一端を語ってくれた。

濃密だったロビー活動

「ゴジラ-1.0」は昨年11月中旬、LA(ロサンゼルス)プレミアが行われ、12月に公開された。当初与えられた上映期間は3週間ほど。スクリーン数は約2300だったという。しかし、予想以上に大ヒットし、アメリカでの興行収入は5600万ドル、約80数億円に達した。北米で公開した日本の実写映画では過去第1位、北米公開の外国語映画でも歴代3位という好成績を収めた。

アカデミー賞では視覚効果賞独自の選考を経てノミネート、受賞にいたる。最初のリストに残っていた時から「本気で取りにいった」と話す。20本のリストに残るために、VFXなどをどう使ったかと5分の映像を提出、そこをクリアすると、ショートリスト10本に残るための長めの動画とともに監督の解説を入れたものを提出する。どこがVFXか実写かが分かるように説明し、理解してもらう選考方法になっていた。

いわゆるロビー活動の一環で、山崎貴監督もアカデミー会員向けの試写会のティーチインやイベントなどに多数参加した。こうした準備や現地での活動には、LAにオフィスを構える東宝の関連子会社・Toho internationalと東宝の旧国際部であり分社化したToho Globalなどがサポート。岸田も昨年10月から今年2月、特に1月、2月には何度もロサンゼルスに足を運び「とんでもなく貴重な時間を過ごした」と話した。

「ゴジラ-1.0」アカデミー賞受賞会見で山崎貴監督(右)からオスカー像を持たせてもらう浜辺美波=宮間俊樹撮影

ドメスティックなゴジラが支持された

一連の渡米、活動を経験して分かったことがいくつもあった。「外国語の映画をハリウッドで上映することはいかに難しいか」。公開時の館数への対応でも「日本のアニメはかなり浸透しているが、実写映画は戦略的なチャレンジが必要」と実感した。

ただ「ゴジラ」は米国版のゴジラ作品もあり「ファンに支持されていたことも貢献し、外国映画の壁をこじ開ける形になった。アメリカ人が日本の実写映画を見る体験に一役買えたらうれしい」と満足げに話す。それに加え、今回の「-1.0」は戦後間もなくの日本が舞台で、「ドメスティックな映画を作ったことで、秀でて見えた部分もある」とみている。「ハリウッドっぽい映画を作っても横に並ぶだけ。日本らしさを極めたのがアメリカ人に刺さったのではないか。日本の実写コンテンツが通用した意味は大きい」と分析する。

渡辺謙も出演した2014年の「GODZILLA ゴジラ」(ギャレス・エドワーズ監督)が「『ゴジラ-1.0』が米国で受け入れられたことに大きく寄与した」と見ている。海外版ゴジラ映画の1本で、アメリカ版「ゴジラ」としては2作目だった。「ゴジラはキャラクターとして許容範囲が広い。どんなゴジラを描いても受け入れられるキャラクター性、さまざまな側面がゴジラにはあって、自由度が高い」と改めて感じることができた。

「ゴジラ-1.0」©2023 TOHO CO.,LTD.

〝ハードル〟はクリエーティブを生む

アカデミー賞を受賞し日米で大ヒットとなれば、次作へのハードルは相当高くなるのではないか。この問いに、岸田は国内版前作「シン・ゴジラ」(16年)も「そうだった」と語り始めた。「『シン・ゴジラ』は国内で大ヒット、各賞を受賞するなど評価も高かった。その後だっただけに、社内外、特に社外の人から『よく作るねー』と再三言われた。『よくやるね』と言った人から『よくやったね』と言われるのを目標の一つにした」

「前の作品がハードルになることは、充実したクリエーティブを生んだ。興行面の充実、賞の評価はたくさんあったほうがいい。超えるのは難しいチャレンジだが、そうならないと作品がより高いものになっていかないから」というのだ。「『シン・ゴジラ』と逆のことをしよう。民間(人)を描き、主人公の人間性にもアプローチする」。それが「ゴジラ-1.0」。「前作に引きずられるのが一番良くない」と言い切った。

ゴジラは東宝の看板シリーズの一つでメインストリームでもある。「小学生の時、父とレンタルビデオ屋さんに行って、よく借りたのがゴジラシリーズの作品だった。かっこいいと思ったし、映画館でもよく見た。生粋のゴジラオタクとは言えないがゴジラが好きだった」と自身の体験がベースにあった。「映画を作りたいと考えて東宝に入ったのだから、いつかやりたいと思って虎視眈々(たんたん)と狙っていた」としてニンマリする表情を浮かべた。

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
下元優子

下元優子

1981年生まれ。写真家。東京都出身。公益社団法人日本広告写真家協会APA正会員。写真家HASEO氏に師事

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  • 「ゴジラ-1.0」を語る岸田一晃 撮影:下元優子
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