「ウーマン・イン・モーション」是枝裕和、松岡茉優

「ウーマン・イン・モーション」是枝裕和、松岡茉優

2022.11.01

是枝監督×松岡茉優 対話して理解し合うことが豊かさにつながる 東京国際映画祭「ウーマン・イン・モーション」

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

きどみ

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第35回東京国際映画祭で「ウーマン・イン・モーション」が31日、開催された。映画監督の是枝裕和と女優の松岡茉優を迎え、映画界で働く女性の現状や、これからについて語り合った。
 

是枝「このまま放っておいたら、映画界は10年続かない」

映画界での女性の活躍できる場の少なさは度々話題に上がる。その理由として、まずは働き方がある。朝から晩まで撮影で動き回り、休みも取りにくい現場は、女性にとってバリバリ働きながら家庭を持つことがイメージしにくい。松岡が、男性が多い部署で働く女性に話を聞くと、家庭を持つかフルで働くか、どちらかを選ばなければならないこの現状は「不安で、悔しい」と述べていたという。
 
フランスや韓国で撮影経験のある是枝は、こうした日本の働き方は遅れていると指摘。フランスは、映画業界に限らず「晩ご飯前に家に帰る」という働き方が浸透しているため、女性も働きやすい環境だった。韓国も週52時間勤務制があり、労働時間が週で52時間を超えたら、働かない。「このまま放っておいたら、日本の映画界は10年続かない」といった危機感から、是枝は「日本版 CNC 設立を求める会」(action4cinema)を発足するなど、精力的に活動している。

 

松岡「女優という呼ばれ方は当てはまらないと感じていました」

女性が映画界で活躍しにくい理由として、働き方の他に「声のあげにくさ」が挙げられた。
 
幼少期から子役として活動してきた松岡は、さまざまな〝女優〟の姿を芸能界で見てきた。〝女優〟は、清らかで色っぽい。何か思うことがあっても、口に出さない。意見を言ったり行動したりすると「女優らしくない」という言葉が世間から投げられる。自身もそう言われた経験を持つ松岡は、自分は当てはまらないと感じ、「女優」ではなく「俳優」と名乗りたいと思っていた。

 
日本の女優像と対照的なのはフランスだ。「フランスの女優は、1人の生活者として政治や社会問題に積極的に向き合っています」と、是枝は言う。ステートメントを出したり、デモに参加したり、〝女優〟という立場を自覚しながら、社会に影響を与えていた。役者だけでなく、スタッフ全員、男女ともに休みの日にデモに行っている。是枝は「正しい社会との関わり方だと思います。女優が発言したり行動したりすることを揶揄(やゆ)する日本は、遅れています」と、日本社会の現状に異議を唱えた。
 

声をあげた人を孤立させない試みを

声をあげにくい世の中だからこそ、「声をあげた人が守られるような体制にしなければならない」と是枝は力強く主張。リスペクトトレーニング(職場や現場でのハラスメント防止のための取り組み)を実施したり、インティマシーコーディネーター(映画などで描かれるラブシーンやヌードシーンの撮影をサポートする専門家)を現場に呼んだりして、役者の負荷が軽減できるような現場作りを試みている。「現場で強い信頼関係が築かれていたとしても、直接話しにくいことはあります。調整役として入ってもらうと、自分とは違う視点で意見を言ってくれるので、助かります」
 
松岡は、芝居は心を使うため、心を壊して当然だと思っていた。だが、インティマシーコーディネーターなど役者の負荷を減らす存在が中間に入ることで、仕事との向き合い方が変わるかもしれない。「俳優の心を壊さずに芝居を続けることができるなら、それはとても豊かです。俳優になりたい人を心から応援できます」と期待を込めた。
 
是枝と松岡は最後に、「対話すること」の大切さを訴える。自分と違う考えや価値観を持つ人がいるのは当たり前で、そうした相手を攻撃すべきではない。「なぜそう思ったのか、相手の話を聞ける世界であれたらいい」と、松岡は力強く締めくくった。

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ライター
きどみ

きどみ

きどみ 1998年、横浜生まれ。文学部英文学科を卒業後、アニメーション制作会社で制作進行職として働く。現在は女性向けのライフスタイル系Webメディアで編集者として働きつつ、個人でライターとしても活動。映画やアニメのコラムを中心に執筆している。「わくわくする」文章を目指し、日々奮闘中。好きな映画作品は「ニュー・シネマ・パラダイス」。
 

カメラマン
ひとしねま

2022TIFF

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