「『ウルトラセブン』55周年記念上映」のトークショーに登壇した(左から)樋口真嗣、樋口尚文、氷川竜介

「『ウルトラセブン』55周年記念上映」のトークショーに登壇した(左から)樋口真嗣、樋口尚文、氷川竜介

2022.10.30

「混沌(こんとん)とした時代に〝正義〟を考える」 今見るべき「ウルトラセブン」

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

きどみ

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第35回東京国際映画祭で29日、ジャパニーズ・アニメーション部門に出品された「ウルトラセブン」55周年記念上映トークショーが行われた。監督の樋口真嗣、評論家・監督の樋口尚文、アニメ・特撮研究家・明治大学大学院特任教授の氷川竜介が登壇。アニメ評論家である藤津亮太がモデレーターとなり、「ウルトラセブン」が残した功績や「ウルトラセブン」を「2022年の今」見るべき理由について語り合った。
 

知能ある宇宙人、文明の衝突

1966年に放送された「ウルトラマン」から、1年の時を経て誕生した「ウルトラセブン」。まずはどう進化したのかを藤津が問いかける。
 
「世界観や設定が強く固められていました」と答えたのは氷川教授。科学特捜隊の役割やキャラクターごとの設定が明確に存在しなかった「ウルトラマン」から一転。「ウルトラセブン」では、〝敵は知能を持った宇宙人であり、文明同士の衝突が起きている〟といった状況説明から始まり、ウルトラ警備隊の役割も明確に定められていた。「世界観がしっかり固められていたので、描かれていること以上の想像もできました」
 

サンダーバードの影響も?

樋口尚監督は、世界観と同様「デザインもしっかり固められていた」と話す。ウルトラ警備隊の隊員服やマークなどのデザインが印象的だった。「ウルトラマン」から進化した理由は、65年にイギリスで放送された人形劇「サンダーバード」(日本では翌66年に放送)や、アフリカンアートなど外国の文化の影響を受けたからだろうと推測。
 
「ウルトラセブン」のデザインもまた、日本万国博覧会の「太陽の塔」の内部「生命の樹」のデザインに影響を与えたのではないかと話す(「ウルトラセブン」の美術監督である成田亨が制作に携わった)。「いい意味でトラウマです。『ウルトラセブン』は、色あせない宝物として刻まれています」
 

樋口真嗣「人生を狂わされた」

樋口真監督は、「ウルトラセブン」は、宇宙人や警備隊の飛行機だけでなく、音楽や物語もデザインされていたと話す。子ども向けの作品だと侮らず、これまでテレビ番組で使われなかったようなモダンな音楽を使用したり、物語の設定も緻密に作られたりした。「いろんなものが圧縮されて、密度の濃い作品だった」と表現。
 
「細かいところにも目配りをし、手抜きをしてはいけないと教わりました」「人生を狂わされた作品で、今度は自分も人の人生を狂わせる立場になってしまった」と監督としての自身のキャリアも振り返りながら語った。
 

樋口尚文「正義が平和に導くとは限らない」

最後に藤津が、初放送から55年たった「ウルトラセブン」を今見るべき理由について3人に問いかけた。
 
「平和とは言い難いこの時代だからこそ見るべき」だと氷川教授と樋口尚監督は、口をそろえた。「ウルトラセブン」が放送された67年は、学生運動やベトナム戦争などで不安定な世の中であった。樋口尚監督は、「ウルトラセブン」を見て、〝正義〟の定義はさまざまで、必ずしも〝正義〟が平和に導くとは限らないと考えるようになったという。「ウクライナ情勢で正義や平和について考える今だからこそ、〝アクチュアルな作品〟として見てほしい」と語った。
 
樋口真監督は、「ウルトラセブン」では頻繁に描かれていた〝首を切る〟などの残酷表現が簡単にテレビでできなくなった今、「『ウルトラセブン』にはない、新しい必殺技などを考えてほしい」と、これからの世代を担う若者に期待を込めた。

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ライター
きどみ

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きどみ 1998年、横浜生まれ。文学部英文学科を卒業後、アニメーション制作会社で制作進行職として働く。現在は女性向けのライフスタイル系Webメディアで編集者として働きつつ、個人でライターとしても活動。映画やアニメのコラムを中心に執筆している。「わくわくする」文章を目指し、日々奮闘中。好きな映画作品は「ニュー・シネマ・パラダイス」。
 

カメラマン
ひとしねま

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