東京国際映画祭交流ラウンジ 是枝裕和監督と橋本愛=山田あゆみ撮影

東京国際映画祭交流ラウンジ 是枝裕和監督と橋本愛=山田あゆみ撮影

2022.11.01

是枝裕和と橋本愛「ちゃんと寝て食べてれば、人は怒鳴らない」 撮影現場の環境改善訴え:東京国際映画祭

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

山田あゆみ

山田あゆみ

第35回東京国際映画祭の交流ラウンジに31日、是枝裕和監督と俳優の橋本愛が登場した。是枝監督が脚本を兼ねる配信ドラマ「舞妓さんちのまかないさん」(2023年1月配信開始)で組んだ2人。映画業界の労働環境改善やハラスメント防止など問題意識を共有し、「声を上げ続けることの大切さ」を声を合わせて訴えた。
 

(C)2022TIFF

是枝監督「休めば効率は良くなる」

橋本は昨年に続き、東京国際映画祭アンバサダーを務める。昨年と違って今年は「自分自身の意見を発言していこう」と決めていたという。
 
是枝監督から橋本へ、俳優の立場から見て映画業界に変えてほしい部分を問われると「撮影時間が短くなるとうれしいです。休息と撮影のバランスがとれるようになると、パフォーマンスも上がるはず」とし、スケジュールがタイトな現場では、自分だけでなくスタッフの士気の低下や疲弊を感じるそうだ。

是枝監督も、韓国で「ベイビー・ブローカー」を撮影した際に感じた日本とのギャップを振り返った。韓国では、俳優が週に1日休みをとることが徹底されているそうだ。それに伴い、連休も生まれる。是枝監督は「休むと効率が良くなるのは、経験として感じました」と言う。日本では撮影が始まると文化祭のノリのような一体感があるとしながらも「それでは改革は進まない。ちゃんと寝てちゃんと食べてれば、人は怒鳴らなくなる」と、映画業界の労働環境改善の必要性を訴えた。
 

(C)2022TIFF

橋本「成功体験への固執が周囲にしわ寄せ」

日本映画業界の世代間ギャップについて橋本は「是枝さんのように、今の時代の流れを分かって(俳優やスタッフに)目を向けてくれている人もいる」としつつも「今(の時代の流れ)を見ずに、今を生きている人がいる」と問題提起した。固定観念や過去の成功体験に固執している人の行動によって「誰にしわ寄せがきて、誰がこぼれ落ちているのか。分かっていますか?と思うところはありました」と語気を強めた。映画業界に限らず、変わり続けることの重要さでも、2人の意見は一致した。
 
一方で是枝監督は「自分が現場で思いついたことを口にすると、まわりがそのために動いてしまう。といって思いつくことはとめられないので、負荷がかからないようにそれを提示しなければならない」と葛藤をにじませた。橋本は、是枝監督の現場で助監督から「(現場は)大変だけど、是枝さんの映画への純粋なまなざしと思いに触れると、言うことをきいてしまう」と聞いたという。是枝監督は「無意識のハラスメント」と苦笑い。橋本は「変化しようという監督の姿勢だけでも、安心して頑張れる」と返したが、是枝監督は「姿勢だけで評価される立場じゃないので、実績を作っていこうと思います」と答えていた。

世界を見渡してもっと面白く

デビューから13年ほどたつ橋本だが「10年以上お芝居ができていない感覚があった」と意外な発言。本質的な表現ができず苦悩していたそう。その転機になったのが、成島出監督の映画「グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇」の現場だった。
 
成島監督から「ほんとにヘタだね」と言われた時に「やっぱり、そうですよね!」と思ったという。やっと言ってもらえたと。そこで一から芝居を習い、才能がなくても知識や経験によって芝居はできるのだと、自信につながったと振り返った。一方で是枝監督は、「舞妓さんちのまかないさん」に橋本を起用した理由を「所作の奇麗さ」とし、撮影に入るまでの準備を徹底していると称賛した。
 
今後の日本映画業界について橋本は「日本人に向けた映画だけじゃなく、(映画製作側の)みんなが世界を見渡していくと、もっと面白い表現が生まれると思う」と述べた。是枝監督は「映画が難しくて面白いのは、複雑だから」という。映画では、エンターテインメントと芸術の側面が、分かちがたく共存していることを強調した。また映画祭の役割について、芸術面と経済面を両立させ、映画業界で働く人の権利を示すことだと語った。

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ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

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