第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。
2022.11.01
子どもではなく、同じ「映画を作る者」として向き合った 一線監督が語ったティーンズ映画教室の5年間:東京国際映画祭
第35回東京国際映画祭交流ラウンジで30日、「TIFFティーンズ映画教室スペシャルトークショー」が行われ、諏訪敦彦、大九明子、三宅唱、瀬田なつき、早川千絵の各監督と、こども映画教室代表の土肥悦子さんが登壇した。
TIFFティーンズ映画教室は2017年から毎年開かれている中高生向けワークショップで、映画監督を講師に招き、ショートムービーを製作する。トークショーでは、過去5年間の作品を鑑賞し、講師を務めた映画監督とワークショップ参加者たちが当時を振り返り、今後への展望を語った。
(C)2022TIFF
諏訪監督「理解することと信じることは別」
17年のワークショップ講師を務めた諏訪監督は、「こども映画を作るのか、映画作品を作るのか」という問いかけを参加者たちにしたのが、監督自身にとっても発見だったと振り返る。
自由な撮影が始まると、刑事モノの作品を撮ろうとしたグループがあった。諏訪監督は子どもが刑事役をすることについて「どうしようかな」と迷ったという。そこで、子どもが刑事役を演じた映像を撮影し、皆で見たそうだ。他の参加者に「刑事に見えるか?」と尋ねると、「見えない」との答え。次に別の参加者に事件の被害者の遺族役を演じさせたところ、今度は「被害者遺族に見える」と満場一致。
このことから、諏訪監督は「映画を理解することと、信じることは別だ」と気付いたのだそうだ。つまり、見る側は子どもが何かを演じているのを理解はできるが、子どもが刑事だとは信じていないということだ。参加者に「子ども映画を作るのか、映画作品を作るのか」と問いかけたところ、「映画を作りたい」との答えが返ってきたことで、その後のワークショップの方向が決まったという。
大九監督「青春真っただ中で青春映画を撮るって、ない」
大九監督は「青春真っただ中にいる子たちが、青春映画を撮っているって意外にありそうで、ない」と、映画教室の意義、貴重さを熱く語った。また参加者を子ども扱いしたくなかったというポリシーを明かし「自分が中学生の時、子どもだと思われたくなかった。彼らも、かけがえのない大事な人たちだと感じていた」と述べた。
そして、ワークショップ当時、わくわくした思い出を振り返った。構図に悩むカメラ担当者に、アシスタントになったような感覚でアドバイスをしたところ「あ、ほんとだ!」との反応。「人が何かを発見した瞬間に立ち会っちゃった」と感動したという。
三宅監督「本気が、まっすぐ映っている」
コロナ禍での開催時に講師となった三宅監督は、リモートでの映画製作は不可能だと思っていたという。また「撮影現場の盛り上がりを経験できなくて、残念なことにならなければいいな」と心配していたが、「結果的に面白い作品が出来上がった」。「全員が本気でやっていることが、まっすぐに映っている」と参加者の努力をたたえた。
参加者の一人は、会ったこともない相手との映画作りは手探りだったとしつつも「それぞれが、一番うまく撮れる好きなものを詰め込んだ映像がつながった」と笑顔でコメントした。
5年間に完成したのは個性やアイデアが光る作品ばかりで、講師の監督一同は新しい日本映画界の希望を感じたようだ。今年の講師を務めた早川監督は「子どもたちが作ったビギナーの映画としては見ていない。同じ映画を作る者として、斬新さが感じられて面白い」と称賛。
瀬田監督は「私が中学生の頃はこういった催しはなく、その広がりの面白さを感じている」と言い、参加者を見ていて「一緒に作りたいと感じた」と、今後の活躍に期待をにじませた。
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