私の頭の中の消しゴム

私の頭の中の消しゴム©2004 CJ Entertainment Inc.

2024.9.21

「私の頭の中の消しゴム」若年性アルツハイマーをベースに恋愛のステージや病状ごとに変化していく主人公たちの愛に打たれる

Y2K=2000年代のファッションやカルチャーが、Z世代の注目を集めています。映画もたくさんありました。懐かしくて新しい、あの時代のあの映画、語ってもらいます。

権藤ゆかり

権藤ゆかり

「あなたのことを忘れるから、私のことも忘れてね」
愛する人にそう言われたら、どうするだろうか……。私なら現実から目を背けてしまうだろう。大切な人に忘れられたら、耐えられないかもしれない。
この映画は、若年性アルツハイマーの妻と彼女を支える夫の物語である。
 

こんな告白、憧れちゃう! 大胆な恋の駆け引きに胸キュン

 昔から忘れっぽい性格の女性、スジンはコンビニで購入したコーラを忘れて店を出てしまう。慌てて店に戻った彼女だが、置いてきたはずのコーラがないことに気づく。たまたまコーラを持って店を出てきた男性、チョルスが自分のコーラを盗んだと勘違いし、スジンは彼のコーラを勝手に飲み干してしまう。2人の出会いは一つのコーラだった。コーラは2人の出会いの象徴として度々登場する。
 
その後、チョルスが父の経営する建設会社の現場監督だと知ったスジンは、以前コンビニで出会った彼のことが気になり始め、ありとあらゆる手段を使って彼に接近していく。
おすすめは、飲み会での告白シーンである。周囲にバレないように机の下で手をつないでいる2人。チョルスは焼酎を1杯、彼女に差し出し、「飲んだら恋人になる、飲まなかったら死ぬまで会うことはない」と言う。彼女は黙って焼酎を一気飲みする。このシーンには、思わず「かっこいい」と心の声が漏れてしまった。焼酎を飲むか飲まないかで告白するチョルスもかっこいいし、迷う間もなく飲み干す彼女もかっこいい。「恋人」か「友達」の2択ではなく、「恋人」か「一生会わない」の選択を迫るところが彼の本気度を表していると思った。この映画には、悲しい病の物語だけではなく胸キュン要素もたくさん詰まっている。
 

病と闘いながら、失われていく日常を生きるスジンに感情移入

電柱、道の花々、トタン屋根、道路、家のドア――。家に帰るまでの見慣れた景色が、スジンには初めて見る景色のように感じられた。友人たちに相談しても「新婚でアツアツだから」とバカにされてしまう。日々のささいな出来事を思い出せなくなった彼女は、病院で若年性アルツハイマーと診断される。医師からは「肉体的な死より、精神的な死が先に来る」と告げられる。彼女は医師からの助言のもと仕事を辞め、家に引きこもるようになる。
 
私だったら、自分が帰り道も分からなくなり、愛する人も忘れ、精神的な死が訪れた時、生きている価値が分からなくなるだろう。肉体的な死より精神的な死は、はるかに残酷で生き地獄だと思う。私には到底、病気に立ち向かえる自信はない。しかし彼女は、チョルスの献身的なサポートもあり、アルツハイマーと闘いながら懸命に生きていく。
 
私も過去に、昨日まで当たり前にできていたことが、ある日突然できなくなった経験がある。その事実を理解できなかったし、受け入れるのにも時間がかかった。もう何年も前の事だが、今もまだ完全に受け入れられてない自分がいる。自分と彼女を重ねてしまい、徐々に記憶を無くしていく彼女に思わず涙してしまった。
 

自分のことを忘れてしまう妻へのいちずな愛に号泣

仕事を辞め、家に引きこもっていたスジンは、ある日、辞めた会社に私物を引き取りに向かうが、会社までの道のりすら思い出せず、途方に暮れてしまう。そんな中、スジンはかつて不倫関係にあった元恋人のヨンミンと偶然遭遇する。スジンは旦那のチョルスとの生活が記憶から失われつつあり、彼女の記憶の中ではまだヨンミンは交際中の彼氏だった。彼女のアルツハイマーは新しい記憶からだんだんと消えていく恐ろしい病気だった。
 
愛する人に自分の存在を忘れられたら、どんなに苦しいだろうと思った。自分が相手のことを忘れるよりはるかにつらい。病気だからといって、理解しようとしてもできないかもしれない。どこにも行き場のないモヤモヤとした感情を、相手にぶつけてしまうかもしれない。私だったらチョルスのように献身的なサポートをすることも、一緒に生活することもできないだろう。自分のことを忘れられてもなお、妻のことを愛し続けるチョルスのいちずな愛が垣間見えるシーンが幾度となく描かれ、その度に胸が締め付けられる作品だ。

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ライター
権藤ゆかり

権藤ゆかり

ごんどう・ゆかり 2002年3月29日生まれ。日本大学芸術学部映画学科演技コース卒業。
中学から6年間舞台役者として活動、高校2年からは自身で自主映画を製作し、NPO法人映画甲子園主催「高校生のためのeiga world cup」にて森岡道夫賞など数々の賞を受賞。大学では映画史や演技を学んだ。22年から23年までTBS「オールスター感謝祭」のアシスタントなどを務め、現在はモデルやタレントとして活動。好きな映画は「百円の恋」。特技は漫画のような驚いた顔。趣味は映画鑑賞、韓国ドラマ鑑賞、車に揺られながら寝ること。

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