Y2K=2000年代のファッションやカルチャーが、Z世代の注目を集めています。映画もたくさんありました。懐かしくて新しい、あの時代のあの映画、語ってもらいます。
2024.8.13
魅力的な登場人物たちが〝命〟に寄り添い続けるラブストーリー「僕の初恋をキミに捧ぐ」
「僕の初恋をキミに捧ぐ」は、これまでにも「僕は妹に恋をする」「カノジョは嘘を愛しすぎてる」などが実写映画化されてきた青木琴美の甘酸っぱい少女漫画が原作で、その原作は「僕は妹に恋をする」のプレストーリーとして、2005 年 17 号から08 年 15 号まで「少女コミック(小学館)」にて連載された。監督は「僕たちがやりました」「日曜の夜ぐらいは…」などのドラマ演出をはじめ、劇場映画の「潔(きよ)く柔(やわ)く 」「なのに、千輝くんが甘すぎる」など幅広い作品を手掛けてきた新城毅彦が務めている。
憧れていた高校生活を見るのもY2K作品の醍醐味
この作品の公開年は 2009 年、当時私は 5 歳だった。その時分にちまたではやっていたのは、茶髪でふわふわの片側に寄せた髪形と、鮮やかな色の髪飾り、細くつり上がった眉毛のメーク、血色を足さないベージュ系リップ、有線イヤホンにつながれた MP3――。
私が高校生になった時には見かけなくなったモノばかりだが、この映画には小学生の時に憧れ、思い描いていた高校生活そのものが描かれていた。実際のところ高校時代の私は、先生にばれない程度のピンクのリップを使っていたし、どの教室の黒板にもプロジェクターが設置されていて、生徒の多くは髪飾りなどつけていなかった。小学生の時は茶髪にしてふわふわの髪の毛にドット柄のシュシュをするのが憧れだった。そんな自分の高校生当時と比較しながら見るのも一興であり、楽しめるのが Y2K作品の良さ、醍醐味(だいごみ)だと実感した。
登場人物の個性が交ざり合い、進んでいくストーリー
この作品で魅力的なのはキャラクターそれぞれの持つ強さと優しさだ。
私が特にひかれたキャラクターはいちずで真っすぐで、やると決めたことは一心にやり通す種田繭(井上真央/幼少期:熊田聖亜)だ。幼少期に繭が、四つ葉のクローバーの神様に垣野内逞(岡田将生/幼少期:小林海人)の病気が治りますようにと強く懇願するシーンや、逞が危篤状態に陥った時にドナーの家族に土下座をして頼むシーンはことさら心を揺さぶられた。その時々で、自分にできることに精いっぱい努める繭の姿に心打たれた人は多いだろう。
また、繭をめぐる恋敵、鈴谷昂(細田よしひこ)や、病院で出会った幼いころからの友人、上原照(原田夏希)のキャラクターもそれぞれのはかなさや強さをもつキャラクターであった。昂は、女子生徒から圧倒的な支持を得ている学園のアイドルだが、父が心臓の難病を抱えたまま亡くなってしまった悲しい過去を持つ。父を亡くし、悲しみ続ける母の姿を見てきた昂は、その経験から逞のいなくなった後の繭を心配し、懸命に繭を振り向かせようとする。彼が交通事故に遭った際に所持していた臓器提供意思表示カードは、ドナーを待ち続けた父親から得た彼の優しさだったと思う。
見る者に訴えかける「臓器移植」の難しさと苦しさ
幼いころから逞のドナーが見つかることを祈り続けた繭や逞の家族にとって、昂の臓器提供の話はあまりにも待ちわびた奇跡だった。それに対し昂の家族は、脊髄(せきずい)の反射ですらも小さな可能性に思え、昂の意思に反して臓器提供を拒否するが、家族ならば奇跡を信じることは必然だったと思う。それぞれの思いが複雑に絡み合うシーンであった。
作中に、こんな逞と繭の会話があった。「友達の心臓をもらってまで長生きしたくない」と言う逞に対し、「それなら赤の他人だったらよかったの?」と問いかける繭。この会話に臓器移植の倫理的問題や難しさを強く感じた。
原作が少女漫画らしい甘酸っぱい描写をもちいる場面もあるが、甘酸っぱくも切ない王道ラブストーリーに加え、ついクスッと笑ってしまうようなコメディー要素を含む、退屈知らずな一本だ。そして臓器移植の難しさや若くして愛する人と別れなければいけない苦しさを、純愛要素を織り交ぜて描いている。
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