国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。
2024.8.26
砂入博史監督にも「オキナワより愛を込めて」にも見いだされる、「出会えてよかった」という心地よさ
時計の針を約1年前に戻してみよう。筆者は少し疲れていた。
日本映画アドバイザーとして迎えた第27回富川国際ファンタスティック映画祭が終わった。韓国の国際映画祭の中で最も多い本数の日本映画が出品され、昨年は海外でのフォーラムで東宝、東映、TBSなど日本のメジャープロダクションが集まる異例な「歴史的事件」もあった。手塚眞さんをはじめとする友達のみんなから「ホストの役目を成功裏に果たしたと評価されたので、一息入れてもいいだろう」と余裕な気分で秋の扉を開くDMZ国際ドキュメンタリー映画祭を待っていた。そして、韓国にある中央大学校演劇映画学科時代にドキュメンタリーを教えてくれた恩師のオㆍジョンフン監督が副執行委員長として赴任した感慨深い年でもあった。その中でサーチライトㆍピクチャーズとの「ロサンゼルスㆍタイムズ」のコラボレーション責任者(EP)として、今年のアメリカアカデミー短編ドキュメンタリー賞受賞作の「ラストㆍリペアㆍショップ」を製作していたソウルメイトのナニーㆍウォーカーから紹介したい人がいるという連絡を受けた。それにうれしくも、その人が「日本人」だというのだ。
次第に「つながり」に変わった、砂入博史監督との出会い
砂入博史監督――。アメリカの名門美術大学であるNYU Steinhardt School of Culture, Education, and Human Developmentにはめずらしい日本人の先生というだけでなく、パフォーマンスアート、インスタレーション、写真、造形芸術にビデオアートに至るまで、文字通りの「トータルクリエーター」として日本人のみならず、アジア人クリエーターのプライドとして崇敬に値するキャリア。そのような彼が、ロカルノ国際映画祭などをはじめ、欧州の評壇で絶賛されたフランスのドキュメンタリー作家のシルベインㆍジョージ(Sylvain George)、シネマドゥレエルの観客賞に輝くスイスのヤミーナㆍジュタート(Yamina Zoutat)などと共にコンペ部門で競合していた。主に欧米で活躍しており、大衆的にそこまで関心が高くないドキュメンタリーのジャンルの特性上、国内であまり報道はされなかったが、明らかに2023年の世界のドキュメンタリー映画界で挙げられる話題に違いなかった。
ナニーの旧友というから、自分にも良い友人になるだろうと思ったが、経歴だけを考えると「世界中の大家」とも言えるくらいの人物との遭遇だった。約束をしたインダストリーㆍプログラムのオープニングデーのレセプションが、秋の夕立が降った日の夜に始まったこともあるだけに、真のドラマチックな出会い。彼の第一声が聞こえてきた。「若い方ですね!」
食傷気味だった日本風ドキュメンタリーの殻を破る「オキナワより愛を込めて」
筆者にとって最も驚くべきことは二つだった。まるで彼の言葉が自分に言っているように、どこから見ても到底50代には見えない童顔に、成長期はもちろん作家生活のほとんどを欧米で過ごしたとは思えないほど丁寧で美しい日本語。むしろ、「海外にいるほど、自分のアイデンティティーを大切にしようと努力した」という彼のコメントすら謙虚すぎるほどだった。
さらに驚いたのは、どうして観客賞を受賞できなかったのかと思うほど熱い反応を得た彼の作品「オキナワより愛を込めて」の上映。それはそのままメディアアートで写真家の石川真生氏の写真芸術とコラボするナラティブの実験であり、上映時間中ずっと胸をたたくパーカッションがリードしていくニュータイプのエンターテインメントだった。当時の驚くべき気持ちをどのように表現したらいいだろうか。実は最近、アメリカンマーケットを狙った自分のプロデュース作品を制作しているが、最近の国際映画祭の動向を見ると、いわゆる日本風ドキュメンタリーに人々は多少興味を失いつつあった。もちろん、1899年の「紅葉狩」にまでさかのぼる日本ドキュメンタリーの輝かしい伝統に対する世界の人々の畏敬(いけい)は依然としてあり、国際ドキュメンタリー映画祭でいわゆる必須要素と呼ばれても良いほど、国内ドキュメンタリー映画作家の地位は堅固であろう。ただし、最近の傾向は聖なる、または深刻な話を説教風に並べる社会派ドキュメンタリー一辺倒の雰囲気が疲労感を感じさせている。しかし、タイトルだけを見ると、もうひとつのコロニアリズムの歴史を政治的に強弁する小川紳介風の政治ドキュメンタリーだろうかという安易な予想は、完全に覆されてしまう。そこには愛があったという魔法の呪文のような一言が、客席に座っていた皆を魅了してしまった奇跡の時間。
いよいよ全国劇場公開! 見る者を満たしてくれるラストシーンは必見
「これ、劇場で見られて、監督にも会えるというだけでも十分ぜいたくなことだよね」。上映館の明かりがつくやいなや、同行者に興奮した口調で感想を述べていた女性、エコバッグのエリックㆍバーナウの「ドキュメンタリー映画史」が見える。きっと映画映像を専攻する大学院生だろう。この反響には確かに意味があった。DMZ国際ドキュメンタリーから6カ月月、まだ韓国配給のニュースはないが、韓国外国語大学が韓国研究財団人文社会研究所支援事業のスポンサーを受けて開催した2024日本サバルタン映画祭で「オキナワより愛を込めて」が、現代日本を見せる作品として上映されたからだ。紋切り型の姑息(こそく)な思考を超えて愛を語り、アーティスティック·ストーリーテリングで新しい表現領域を開拓した同作は、日本語と日本文化を専攻する学生だけでなく、近隣の韓国芸術総合学校の映像院で映画を専攻する学生まで呼び集めるなど、気炎を吐いたという。
この「オキナワより愛を込めて」が沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバルの開幕作としてジャパンプレミアを経た後、いよいよ8月24日の沖縄先行公開を皮切りに国内観客と出会うことになる。なんとうれしい知らせだろう。確かにこの3年以内に見た劇映画とドキュメンタリーを網羅した作品のラストシーンの中で、断然ベスト5に入る同作のラストシーンを見て、筆者のようにしばらく劇場から出られない人もいるだろう。欲張りかもしれないが、どうか10月末に帰国するときは、劇場で作品にまた会いたいものだ。