チャートの裏側

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2025.2.14

チャートの裏側:「守る」をめぐる時空の旅

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

リアルと虚構の垣根を飛び越え、生々しい恋愛感情が湧き上がる。「ファーストキス 1ST KISS」だ。夫を亡くした40代の女性・カンナが過去にタイムスリップ、20代の若い頃の夫・駈に会う。この設定はややもすれば、チープな絵空事か安手な感動ものになる。本作は違った。

カンナが過去で、駈に放つ言葉の数々が鮮烈極まりない。彼のちょっと偏屈な好みに先んじて、それを匂わせ、共感する。言葉に過去と現在が入り交じる感覚がある。これがリアルと虚構の垣根を飛び越えるのだろう。観客は笑みを浮かべながら、居心地の良さを感じとれる。

居心地の良さは、かき氷店での何回かのシーンが特に際立つ。2人の会話に周りの人が何を言おうが、カンナは駈を「守る」。この「守る」という行為が本作の恋愛劇の要にあって、それは駈が亡くなった理由でもある。本作は2人の「守る」をめぐる時空の旅にも見える。

リアルな数字の話をすれば、スタート3日間の興行収入は2億5400万円だった。好調ではあるが、突き抜けてはいない。となると、先のような会話劇的手法の恋愛ものは、ちょっとハードルが高いと感じる人もいるということなのか。否定はできないが、作品の底力がまだ伝わっていない気もした。この比類なき恋愛劇は世代を超え、幅広い層に向けられていると思う。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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