チャートの裏側

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2025.2.07

チャートの裏側:ひとごとではない「暗転」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

2月1日午後、東京都内のテアトル新宿に赴くと、満席で入れなかった。長塚京三主演の「敵」である。毎月1日は割引デーだから、少し首をかしげた。年齢層が高い作品と踏んでいた。割引料金があるシニア層は、1日を優先しなくてもいい。客層の幅が広がっているらしい。

評判どおりの素晴らしい作品だった。老いた元大学教授の話である。妻を亡くし、代々受け継ぐ格式ある家で1人暮らす。ところが、その淡々とした日常がしだいに変質していく。「敵」がやって来たのだ。以降、彼の現実と夢、妄想が錯綜(さくそう)するが、あることに気づかされる。

元教授は「家」を守ろうとして、窮地に陥るのではないか。「家」に象徴されるのは、国の形とも考えられる。この推察は、原作が筒井康隆だからできる。彼は文学の定型と、それを作った日本の風土性に辛辣(しんらつ)な目を向けてきた。映画の肝部分も、その毒に照準を合わせたい。

その推察はともかく、ある人物の日常がひっくり返るのは事実である。夢、妄想とはいえ、これは今の時代に実にリアルな出来事だと言える。客層が広くなっているのは、毒の感知以前に、人の人生がひっくり返る展開が、ひとごとではないからだろう。その認識は、年配者だけの話ではない。限定公開ながら、興行収入では1億円は超えた模様だ。まだまだ、足りない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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