毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2025.1.24
チャートの裏側:相手を思う徹底性「発見」
「ガンダム」「初音ミク」のネーミングに威力がある1、2位作品以上に、注目すべき興行だと思う。「366日」だ。公開2週目の週末3日間の興行収入が、1週目の約135%になった。落ちが少ない作品はあるが、上昇していく作品はめったにない。しかも、不利な条件があった。
「366日」は、有名な楽曲からインスパイアされた作品だ。若い男女の長年にわたる恋愛を描く。そこに、不幸な出来事がかかわる。いわば、定番的な恋愛映画にも見えた。だから、公開前には、いささかインパクトに欠ける印象があった。それが、ひっくり返ったのである。
じわりじわり、クチコミがきいてきたのだ。ただし、上映回数の減少という条件がのしかかった。スタートが少し芳しくないと、2週目には回数が減る。しかも、その週には冒頭に挙げた強力作品がそろい、編成の重点は、そちらに移る。「366日」は、そのハンデも覆した。
作品に力がある。定番的な恋愛ものにも見えるが、上滑りはしない。その理由は、登場人物の心根、行動にある。恋愛がからめば、相手に対して、どうしても独りよがりになりがちだ。本作は違う。相手のこと、人のことを思う。その徹底性が、どこか禁断の世界のようだった。それは見る側の心根をグサッとえぐる。若い観客たちが「発見」してくれた作品だと思う。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)