毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
チャートの裏側
2025.1.17
チャートの裏側:年を重ねた五郎の新天地
外食の時、料理の味をかみ締めながら、口の中で何事かつぶやく。冗談ではなく、時々あるのだ。あるテレビドラマの影響である。その映画版「劇映画 孤独のグルメ」がヒットスタートを切った。休日を挟んだ4日間で、興行収入3億3000万円を記録。10億円超えも見えた。
今さらだが、ドラマ「孤独のグルメ」は、松重豊演じる井之頭五郎が仕事で出掛けた先で外食を堪能する話だ。ドラマではあるが、人間関係は極力抑えられ、彼が食べるシーンに見せ場がある。長い人気を誇るのは、ハードボイルド調とも言っていい五郎の食のスタイルにある。
国民的、否、世界的な健康志向の中、五郎は一人黙々と、体が欲する料理に食らいつく。健康志向もへったくれもない。潮流に背を向け、堂々たる孤高のスタイルを貫く。これがハードボイルドたるゆえんだ。現代から失われがちだが、だからこそ人は魅力を感じるのだろう。
映画版は、ドラマ部分が増えた。当然だが、人間関係が密になった分、孤高のハードボイルド性は希薄になった。監督も手掛けた松重の姿勢に変化を感じた。ドラマは、すでに13年が過ぎている。ハードボイルドは、実行者が年をとれば、変化を余儀なくされる。映画は、年を重ねた五郎の新天地の趣があった。「これもいいではないか」。口の中でつぶやく自分がいた。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)