チャートの裏側

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2025.1.10

チャートの裏側:「安定志向からの逸脱」願う

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

2025年の正月興行は、1月1日から5日までの興行収入比較では、全体的に前年を上回った模様だ。地方のあるシネコンは、前年の117%だった。今年は、5日まで休みの人が多かったことが大きい。ただ年末から5日までとなると、そのシネコンは前年より数字を若干下げた。

作品別では、累計の数字がもっとも高かったのが、サプライズヒットの「はたらく細胞」(41億3000万円)だ。「モアナと伝説の海2」(41億2000万円)、「劇場版ドクターX」(27億円)が続く。いずれも5日時点の数字で、上位2作品はともに50億円は超えてくるだろう。

興行うんぬんではなく、チャート上位作品に感じたことがある。中身に、いささか精彩がなかった。人によって意見は違うだろうが、重要なのは映画という表現、枠組みなどをいかに揺り動かすか。安定志向からの逸脱である。それがあまり見えず、挑戦力に欠けた印象だった。

その挑戦は、娯楽作品だから、おざなりにしていいことには全くならない。むしろ逆で、娯楽作品だからこそ、王道の娯楽的な要素を押さえつつ、話の展開、人間描写の点でさまざまな工夫ができる。政治、経済、社会の問題に切り込む。人のあり方を問う。実のところ、年始の何本かのテレビドラマのほうに、その意欲があった。映画が、これでいいわけがない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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