この1本:「敵」 老境淡々と思いきや
全編モノクロ、描かれるのは長塚京三演じる70代後半の元大学教授、渡辺儀助の日常である。大した事件が起こるわけではなく画面は地味なのに、目が離せない。どころか、物語が進むほど前のめりになる。筒井康隆の小説を吉田大八監督が映画化。東京国際映画祭で東京グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞と3冠に輝いたのも納得だ。 フランス文学の権威だった儀助は20年ほど前に妻に先立たれ、古い一軒家に一人暮らし。貯金とわずかな収入を支出で割って、ゼロになる日がXデー。遺言も整えて、算出した余命を淡々と生きている。 映画は落ち着いて滑り出し、夏から始まる儀助の四季をたどる。生活の細部を丹念に描く。食材と調理法にこ...