毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.8.23
チャートの裏側:「原点返り」米映画の危機感
夏興行が終盤を迎える中、興味深いことがある。米映画の実写娯楽大作のレベルが高いのだ。興行全般ではない。内容面のことを指す。「デッドプール&ウルヴァリン」「ツイスターズ」、先週公開された「フォールガイ」。たかが3本、と言うなかれ。この集中度が重要だ。
共通点がある。過去の娯楽作の体裁を引き継ぎつつ、製作上の多彩な味付けを施し、新たな作品の道を切り開いていることだ。先の作品別に、ヒーローの系譜をたどる。映画遺産を復活させる。アクションに新鮮味をもたらす。根っこに、米映画の娯楽の神髄があるとみる。
「フォールガイ」には、かつての映画のタイトルが何本も登場する。アクションものばかりではなく、恋愛ものもある。過去タイトルが、マニアック風に上滑りするのではない。それらの作品のエッセンスを存分に咀嚼(そしゃく)して、話やアクション描写の活力にしているのが面白い。
「原点返り」という言葉を時々聞くことがある。自身でも使う場合があるが、これは体のいい、ありふれた言葉ではない。人も含め、あらゆる領域において長い歳月、歴史が積み重ねられていくと、おのずとそこに行き着くこともあるのだ。米映画の実写娯楽大作は今、そこに向かおうとしているのではないか。背後には、米映画の大きな危機感も透けて見えてくる。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)