毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.7.26
「このろくでもない世界で」 ただならぬ緊迫感がみなぎる映像世界
第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された韓国映画である。18歳の少年ヨンギュ(ホン・サビン)は、家では継父の暴力にさらされ、学校では不良グループと対立している。バイト先を首になり、地元の犯罪組織の門戸をたたいた彼は、一味を率いるチゴン(ソン・ジュンギ)への憧れを抱く。しかし、その先には悪夢のような運命が待ち受けていた。
韓国では格差社会を背景にした映像作品が盛んに作られているが、閉塞(へいそく)した地方の町を舞台にした本作もその一本。過酷な現実を生き抜こうとする少年が、悪事に関わったことでさらなる絶望のどん底に突き落とされていく。新人のキム・チャンフン監督は、自らの下積み時代の経験に基づくリアリズムとギャングノワール映画の様式を融合させ、ただならぬ緊迫感がみなぎる映像世界を構築。主人公ヨンギュとチゴンの師弟関係、かけがえのない存在である義妹(キム・ヒョンソ)との絆にも切実な情感を吹き込み、登場人物たちの痛みや悲しみが胸に迫る骨太なドラマに仕上げた。2時間3分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)
ここに注目
劣悪な家庭環境、犯罪組織のおきてなど使い古された道具立てにもかかわらずのめり込んでしまうのは、韓国映画の神髄の一つである尽きない緊張感と心身の痛みのせいだ。ソン・ジュンギのすごみと虚無感、ホン・サビンの人間味、キム・ヒョンソの眼力に圧倒される。暗くて救いがない映画も実は面白い。(鈴)