毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「少年と犬」©2025映画「少年と犬」製作委員会
2025.3.21
「少年と犬」 罪を犯した2人に寄り添う犬・多聞の一途さが生み出す高揚感
東日本大震災から半年後の仙台。和正(高橋文哉)は飼い主をなくした犬の多聞と出会う。和正が家族を助けようと犯罪グループに加わり窃盗を繰り返すうちに、多聞は姿を消してしまう。多聞は常に西の方角を見ていた。時は流れ、多聞は滋賀県で暮らす美羽(西野七瀬)と一緒にいた。美羽も、ある秘密を抱えながらデートクラブで働いていた。多聞を追いかけてきた和正が美羽の前に現れ、2人と多聞の生活が始まる……。
馳星周が直木賞を受賞した同名小説の映画化。犯罪に手を染めてしまった若い男女が、多聞との絆を深めることで心のよりどころとし、自らを取り戻そうとする過程を繊細に描いた。瀬々敬久監督は2人の犯罪を断罪するのではなく、2人に寄り添う多聞に語りかけることで、彼らが再生に向かう心の動きを丹念にすくい取った。薄幸な高橋と西野が発散する無垢(むく)な感性と、多聞のいちずさが融合して、ドラマに高揚感を生み出した。その先にあるもう一つの物語はファンタジー色も加わり、犬好きは共感と愛着に包まれること必至。2時間8分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴)
ここに注目
連作短編集の原作から2人を主人公に据え、東日本大震災と熊本地震という二つの災厄を結ぶ人と犬のロードムービーに仕立てた。多聞は人間の希望の象徴のように、行く先々で人々の人生を変えていく。思うに任せぬ不運で苦境に立つ和正と美羽に向けたまなざしは、瀬々監督らしく厳しくも温かい。(勝)