毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2025.1.17
「アンデッド/愛しき者の不在」 静謐な語り口に満ちる静かな悲しみ
「ぼくのエリ 200歳の少女」の原作者として知られるスウェーデンの作家ヨン・アイビデ・リンドクビストの小説を、ノルウェーの新人監督テア・ビスタンダルが映画化した。ノルウェーの首都オスロが大停電に見舞われた直後、各地で死者がよみがえる怪現象が発生。すでにこの世を去ったはずの愛する者と対面することになった三つの家族の姿を見据えていく。
ゾンビ映画のように、死者が生者を襲うパニックホラーではない。墓場、葬儀場、病院で息を吹き返し、家族のもとに帰ってきた3体の「アンデッド」は、ただうつろにたたずんでいるだけ。ビスタンダル監督と共同脚本を手がけたリンドクビストは、喪失の悲しみに暮れる家族の不安や混乱を描いた。とりわけ墓場から変わり果てた姿で戻ってきた幼い息子に、どう対処すべきかわからないシングルマザー(レナーテ・レインスベ)の葛藤が痛ましい。物語の背景となる季節は夏だが、35㍉フィルムを採用した映像の肌触りはひんやり。セリフを極力排除した静謐(せいひつ)で繊細な語り口にも引き込まれる。1時間38分。東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪・テアトル梅田ほか。(諭)
ここに注目
「アンデッド」というタイトルから想起される物語とは一線を画す、静かな悲しみに満ちた作品。愛する人を失った喪失から回復するためには時間が必要なように、ストーリーはゆっくりと進んでいく。不可思議な出来事がリアルに感じられ、あの世とこの世の境目に引き込まれていくような感覚になる。(細)