ある種の愚かさを全肯定してくれる作品

「恋わずらい」「恋は盲目」とはよく言ったものだ。恋に落ちて四六時中相手のことを考えると、仕事や勉強が手につかない、食事が喉を通らない、気分の浮き沈みが激しくなるなど、さまざまな面に影響が出る。生活も思考も恋愛に支配される様子ははたから見るとあきれるが、本人の脳内細胞はイキイキとそれに従う。個人差はあれど、恋愛体質の私からすると、そういった不安定さが恋の醍醐（だいご）味だと思っている。「不死身ラヴァーズ」は、そんな「好き」のエネルギーや、ある種の愚かさを全肯定してくれる作品だ。

結ばれる度に消えてしまうじゅん

この物語のヒロインである〝長谷部りの 〟は、幼い頃に出会った〝甲野じゅん 〟に思いを寄せ続けていた。中学にあがり、運命の再会を果たした2人。りのはじゅんへの好意を全力で伝え、ついに両思いとなる。しかしその瞬間、じゅんはこつぜんと姿を消してしまう。友達に聞いても、彼のことなど知らないという。困惑と失望を抱えながら何事もなかったかのように進む日常の中で、じゅんは何度も彼女の前に現れる。高校の軽音楽部の先輩として、車椅子で偶然前を横切った男性として、クリーニング店の店長として。出会う度に全身全霊で恋をするりのと、結ばれる度に消えてしまうじゅん。この2人の不思議な恋愛がたどり着く結末とは･･････。

見上愛さんの真っすぐな瞳

両思いになった途端、相手が消える？！　あまりにインパクトが強い設定と、ヒロインの全力疾走ぶりに圧倒され、このスピード感についていけるか一瞬不安がよぎったが、気が付けば彼女の恋心をすぐ隣で応援する親友のような心持ちで見ている私がいた。その理由のひとつは、りのを演じた見上愛さんの真っすぐな瞳にある。屈託のない無邪気な中学生時代を、あれだけすがすがしい笑顔で演じられると、こちらも気持ちが良い。クスッとなるほど「好き」という純粋なパワーをふりきって表現できる方は貴重だと思う。しかしそれだけではなく、りのの成長や心情の変化をグラデーションをつけて演じる姿に良い意味での裏切りも感じ、物語が進むにつれてグイグイ引き込まれていった。

監督自身の原作への「好き」が詰まっている

原作の漫画「不死身ラヴァーズ」での、甲野じゅんが長谷部りのを追いかけるという構成を逆転させて映画化した松居大悟監督。北九州市出身の、映画界においても私たち北九州市民からしても希望の存在である。原作に出合ってから10年間、映画化の企画が頓挫しても諦められなかったほど、監督自身の原作への「好き」が詰まっている作品でもあるという。

私の中で「松居大悟監督×青春＝無敵」という勝手な方程式があるのだが、今作も青春物語のまぶしい要素を存分に楽しむことができた。それでいて恋愛の表面的な部分ではないコアなところを描くバランス感覚が素晴らしく、勢いよく展開する前半と、中盤から後半にかけて一日を丁寧に重ねる2人の様子のコントラストも見事だった。作中度々登場するGO!GO!7188の「C7」は、私の姉が好きでよく聞いていた曲。劇中歌として聞こえてきた瞬間、歌詞とストーリーのリンクに鳥肌が立った。ヒロインの弾き語りや仲間とのカラオケのシーンでは、きっと多くの人が青春時代を思い返すだろう。この映画で初めて聞く世代にも刺さる素晴らしい楽曲の起用に関しても、松居大悟監督の10年構想の片りんがうかがえる。

シンプルな感情を持てることの幸せと尊さ

何度打ちのめされても、どれだけ絶望しても、不死鳥のようによみがえるりののじゅんへの恋心。ピュアで美しいそのエネルギーに、はじめはあきれていたはずが羨ましさを感じるほどになり、応援していたはずが、知らず知らずのうちに背中を押されていた。恋愛以外にも、推し、夢、趣味など、その対象に関わらず「好き」というシンプルな感情を持てることの幸せと尊さを再確認させてくれる作品だった。