ひとシネマには多くのZ世代のライターが映画コラムを寄稿しています。その生き生きした文章が多くの方々に好評を得ています。そんな皆さんの腕をもっともっと上げてもらうため、元キネマ旬報編集長の関口裕子さんが時に優しく、時に厳しくアドバイスをするコーナーです。
2023.7.15
ガールズユニット「MerciMerci 」の堀陽菜のコラムを元キネ旬編集長が評価する
ガールズユニット「MerciMerci 」の堀陽菜さんが書いた映画コラムを読んで、元キネマ旬報編集長・関口裕子さんがこうアドバイスをしました(コラムはアドバイスの後にあります)
コラムを読む楽しみを味わわせてくれた
堀さんのコラムはツカミ(冒頭)がいい。「ああ、こういうことか」という言葉でこのコラムを始め、読者をその後に来る言葉に注目させることに成功している。
今年開催された第77回毎日映画コンクールの授賞式を見届けた堀陽菜さんは、「まさに『推し事』を『お仕事』としている人々の表彰式であった」と感じ、「頑張りの根源は物事への執着心ではないか」という結論を導きだした。
好きなものへの執着が、自分を未来へ導く原動力となった経験を持つ堀さんだから、強い共感を覚えるのだろう。特に、男優助演賞を受賞した窪田正孝は、小学生時代の堀さんを、ライター、アイドル、役者という現在の活動へ駆り立てた存在らしい。
堀さんのコラムを読むと、授賞式を見ながら、体温をぐんぐん上昇させていく堀さんの姿が想像できるようだ。受賞結果とスピーチのコメントというファクトを述べるだけにとどまらない、コラムを読む楽しみを味わわせてくれた。
堀陽菜さんのコラム
ああ、こういうことか。
「映画の推し事」
この言葉をここまで体の全体で感じた日はなかった。映画人として生きる人々のすてきな祭典であったことは間違いないだろう。「好きな事=推し事」として追求し続ける姿はいつだって輝いて見える。「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、頑張りの根源は物事への執着心ではないだろうか。毎日映画コンクールは、まさに「推し事」を「お仕事」としている人々の表彰式であった。
「映画が好き」というたった一つだけの理由で、私はこうしてひとシネマの学生ライターの名を借り、実に多くの経験をさせてもらっている。本当に幸せだ。私は前世でどれだけ多くの徳を積んでいたのだろうか。そう思うほどに、歴史ある表彰式は私にとって大きな存在であり、今でも心の中にずっしりと居座っている。
何がそんなに私を興奮させたのか。 「推し事」という言葉に便乗して語ってみようと思う。
私は、学生ライターとして活動しているほかにも、実はアイドルや役者としても活動している。よくいる田舎から芸能界に憧れて上京してくるゴマ粒のうちの一人だ。
そんな私が役者を志すきっかけとなったのが、第77回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞された窪田正孝さんである。2013年の単発スペシャルドラマ、2014年の連続ドラマに始まり、その後、劇場版公開までに至った「ST赤と白の捜査ファイル」で窪田さんが演じた黒崎勇治は当時小学生であった私のヒーローだった。セリフを話さず、目、表情、行動で表現された演技を見て大きな衝撃を覚えたことを今でも鮮明に覚えている。「役者」という職業はもちろん知っていた。しかし、自分とは違う人間を生きる仕事はなんて素晴らしいのだろう、その時初めて「将来の夢」を抱いた。
一人の少女の未来を変えるには十分すぎる衝撃だった。
その時からだ、狂ったようにテレビに張り付く毎日を過ごした。数多くのテレビドラマのとりこになった。家族が映画好きだった影響で、映画にも自然とひかれていった。そして良縁が重なり、気が付けば毎日映画コンクールを目の当たりにしていた。数多くの映画人の話は、私の「知らない世界」ばかりで興味深かった。
その中でもやはり、窪田さんの存在は改めて自分の役者への憧れを抱くものだった。背中を押されたのは2度目だ。受賞コメントでの「引き算」「伏線を考えずその時を生きる役者になる」という言葉は、役者として追い続けていた声としてずっしり重みのある言葉だった。
「あっち側にも行ってみたい」
表彰式を見た私の率直な感想だ。このコンクールをどのような思いで見ているかは日本中、十人十色だろう。その中で、こうやって気持ちを高められたことは貴重な経験になったということだ。
そしてもう一つ「ドキュメンタリー映画賞」を受賞した「スープとイデオロギー」にも注目した。監督のヤン ヨンヒさんが自分の家族について撮り続け、韓国の済州島の4・3事件を経験した母にフォーカスしたドキュメンタリーであった。ヤン監督は以前にも家族に焦点を当てた「ディア・ピョンヤン」や「かぞくのくに」などの作品を出していた。しかし、今回インタビューで語った言葉から「やっと自分の家族から解放されて自由に作品を作る」と次回作についての準備コメントを聞くことができた。
毎日映画コンクールでは他の映画コンクールと異なり、映画の「役者」のみならず「スタッフ」の賞があるのが見ごたえのある部分である。まさに、総合芸術であることは受賞者が口をそろえて言う言葉の重みから伝わった。
映画が好きな人が、ますます好きになった日であることは間違いないだろう。そして、私もその中の一人である。お行儀良く座って「素晴らしいですね」なんて言葉よりも、席から身を乗り出して「ヤバい!」と感じたこのワクワク感をこれからも忘れないでいたい。憧れ続けた「役者」という世界に情熱を持ち続け、いつか舞台に立つ日が来たならば、今日抱いたこの思いをマイクを通して世界に伝えたい。小さな役者の卵の、大きな野望である。
毎日映画コンクールで好きな役者という仕事を選び続けていいんだと、背中を押された。映画という表現方法が好きです。だから「役者」を志しました。役者というお仕事を、私は「推し事」としてこれからも楽しみ続けるつもりだ。