東京国際映画祭・黒澤明賞を受賞した深田晃司監督(左)とアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督=勝田友巳撮影

東京国際映画祭・黒澤明賞を受賞した深田晃司監督(左)とアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督=勝田友巳撮影

2022.10.30

黒澤明賞「クロサワは神様。作品に影響受けた」 イニャリトゥ監督:東京国際映画祭

第35回東京国際映画祭が始まります。過去2年、コロナ禍での縮小開催でしたが、今年は通常開催に近づきレッドカーペットも復活。日本初上陸の作品を中心とした新作、話題作がてんこ盛り。ひとシネマ取材陣が、見どころとその熱気をお伝えします。

勝田友巳

勝田友巳

第35回東京国際映画祭で29日、14年ぶりに復活した「黒澤明賞」の授賞式が行われた。受賞したアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、深田晃司両監督は、世界的巨匠が与えた自身への影響を、口々に語った。
 
安藤裕康チェアマンは「黒澤明作品を貫くテーマは、正義と人間愛。今の日本と世界が最も必要なもので、時宜を得た賞だと思う」とあいさつ。トロフィーと賞金100万円が贈られた。
 

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督 (C)2022TIFF

授賞式のために来日

メキシコ出身のイニャリトゥ監督は、2000年のデビュー作「アモーレス・ペロス」以来、精力的に作品を発表。米国に進出し、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14年)でアカデミー賞作品賞と監督賞など、「レヴェナント 蘇えりし者」(15年)でも監督賞を受賞。黒澤賞の授賞理由は「『アモーレス・ペロス』で世界の目をメキシコ映画に向けさせ、作品ごとに新しい試みに挑戦している」としている。
 
イニャリトゥ監督は、授賞式のために前日夜に到着。日本と黒澤監督への敬意を込めてあいさつした。
 
「22年前に東京国際映画祭で『アモーレス・ペロス』がグランプリを受賞し、賞金10万ドルを贈られて人生が変わった。『バベル』では撮影のために5カ月、日本に滞在し、素晴らしい経験をした。その後、映画祭の審査委員長も務めたし、旅行もした。日本文化とは音楽、文学、映画で深く関わっている。黒澤監督は巨匠の中の巨匠、神様のような存在で、その作品は世界の目を開いた。わたしの作品でも『羅生門』は『アモーレス・ペロス』につながるし、『乱』『七人の侍』は『レヴェナント』に、『生きる』は『Biutiful ビューティフル』に影響を与えた」。賞金は自身でもうけた大学の講座に寄付するという。
 

深田晃司監督 (C)2022TIFF

「野良犬」で古典映画に目覚めた

深田監督は06年「ざくろ屋敷 バルザック『人間喜劇』より」を発表。「淵に立つ」(16年)がカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞、「LOVE LIFE」(22年)がベネチア国際映画祭コンペに出品されるなど、国際的な活躍が続く。日本映画界の問題についても積極的に発言、コロナ禍であえぐミニシアター救済のためクラウドファンディングを呼びかけた。
 
深田監督は「偉大なイニャリトゥ監督との受賞はうれしい。黒澤監督には遠く及ばないが、よりがんばれという意味合いも込められていると思う。10代で『野良犬』を見て、古い映画を見始めた」と喜びを語った。続けて「明るい話ではありませんが」と前置きして、日本映画界の現状について言及した。
 

(C)2022TIFF

コロナ禍 映画人の心のケアが課題

「黒澤監督らが活躍した黄金時代と違い、自分が映画界に入った2000年代は監督や俳優、スタッフはフリーランスで雇用も不安定だった。その後も日本映画界は変化に対応できず、低収入、長時間労働などの問題を抱え、コロナ禍でますます厳しくなった。ハラスメントもクローズアップされ、芸術文化に携わる人たちのストレスが増大している。心の健康を守っていくことが課題だ」と訴えた。賞金は自身が関わるメール相談窓口「芸能従事者こころの119」のために寄付するという。
 
授賞式後、受賞者と関係者を招いての晩さん会が開かれた。コロナ禍前に行っていた立食形式のレセプションに代わる、交歓の場。映画祭ポスターをデザインしたコシノジュンコプロデュースのショーなどで、国内外の招待客を楽しませた。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。