第29回プサン国際映画祭開幕式でレッドカーペットを歩く黒沢清監督

第29回プサン国際映画祭開幕式でレッドカーペットを歩く黒沢清監督2024年10月2日、©2024「Cloud」製作委員会

2024.10.17

韓国でも人気!黒沢清監督 上映、マスタークラス20代ファンで大盛況 プサン国際映画祭

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勝田友巳

勝田友巳

第29回プサン国際映画祭は、黒沢清監督の年だった。開会式で「アジア映画人賞」を贈られ、期間中「Cloud クラウド」「蛇の道」と新作2本を繰り返し上映。マスタークラスも開催し、いずれも満席の盛況。滞在中は連日、舞台あいさつや質疑応答、現地メディアの取材などに追われた人気者。「プサンには何度も訪れているが、今年は特別」という黒沢監督に聞いた。

映画人生の半分を見守ってくれた

黒沢監督が初めて同映画祭を訪れたのは、25年ほど前という。当時は海辺ののどかな観光地。その後、映画祭のために建てられた「映画の殿堂」が主会場になり、周辺には韓国映画委員会などの映画関係機関が集まり、高層ビルも建ち並ぶ変貌ぶり。「町のにぎわいに合わせて、映画祭も華やかになっているようです。開会式のレッドカーペットも長かった!」。賞を贈られ「自分の映画人生の半分はプサンに見守られてきたと言っていい。プサンの観客は世界でもハイレベルだと思います」とあいさつした。
 
上映会場やマスタークラスはチケットの争奪戦の状況で、客席は20代とおぼしき若い観客が中心だ。質疑応答でも次々と手が挙がる。そんな状況に「世代が入れ替わりながら、新しい観客が生まれてきている。自分の作品を気に入ってくれて、うれしい限り」。マスタークラスでは「ジャンル映画の最前線」と題して、進行役との対話形式で自身の映画観について語った。
 
「監督にとってジャンル映画とは」との質問に「実は映画そのもの」との答え。「自分の映画作りは、中にあるものを表現するのではなく、外側に自分の作るものを発見すること。これまでに世界中で多くの映画が作られてきた中に、これなら自分にもできるかもしれないと思うものを見つけて、スタッフや俳優たちと近づいていく。映画という大きな塊の中にある1本を、作るということなのです」。参加者からの「監督が作っているものを、別の言葉で表現すると」との質問には「うーん、難しい」と苦笑いしながら「もう一つの現実、でしょうか」。聴衆も納得の拍手が起きた。終了後にはサインを求める長い行列ができ、一人一人丁寧に対応していた。


「Cloud クラウド」©2024 「Cloud」 製作委員会

若い世代と関係できるのが楽しい

プサンでの取材では深い質問が多かったとか。「専門的なことを聞いてきました。空間の使い方とか、窓の向こうに見えたあれは何の意味があるのかとか。楽しむだけではなく、分析して真剣に見ている。そういう人たちが、韓国映画を支えていると思いますね」。日本では東京芸術大大学院教授として、学生たちの指導にあたった。各地でマスタークラスのような機会も増えたという。ただ後進育成に情熱、というつもりはないようだ。

「後進に伝えるとか、教えるということに、あまり関心はないんです。興味深い話を聞いてもらえればいい。学生たちと付き合って、自分が何を言おうが才能ある若者は出てくるし、伝えることはできないと身にしみています。ただ、若い世代と関係性ができて、彼らの映画を見たり、見せたりすることは楽しいですね」。とはいえ、濱口竜介ら教え子たちが、次々と世界に飛び立っている。「そこは自慢ですが、目利きだということでしょう。作った短編作品の最初の3カットを見れば、だいたいこの人はいけるかも、と分かる。その後の成長を見てやっぱり撮れるよな、と悦に入っています」


「蛇の道」© 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA

よくできた映画は国境を超える

海外映画祭の常連でその作品は世界中で公開される。フランスでの撮影も経験した。多くの作品に描かれる暴力や犯罪は、扱いに慎重さを求められるのでは。「題材とすることにちゅうちょはしないが、正しく扱えているかどうか、冷静に吟味できているかは気になりますね。日本では許されても、思わぬ拒否反応を招くことがありますから」

「降霊」(2001年)を米国で上映した際に、子どもの幽霊を棒で殴る場面に「幽霊とはいえ、子どもを殴るのは間違っている」と激しく抗議されたという。ただ「伝わらないことは意外とない」と感じている。「映画だから伝わるだろうと。自分もイランのことをほとんど知らないけれど、イラン映画を理解できるし、面白いと思う。よくできた映画は国境を超えると信じています」

「ダゲレオタイプの女」「蛇の道」と、フランスでの撮影も経験。プサンでは「韓国でも撮りたい」と意欲を見せた。「ホラーやサスペンスのようなジャンル映画なら、どの国でも成立するでしょう。社会的な背景を持った込み入ったドラマをその国の視点から作ることは難しいけれど、どこかに日本人の視点を入れて撮ることはできるかもしれません。ともあれ、フランスでも日本でも、スタッフや俳優が苦労をいとわず映画を作ってくれることは変わりません」

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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