野々村友紀子さん=本人提供

野々村友紀子さん=本人提供

2023.6.07

全身にブツブツ髪の毛ギトギトから人間らしい働き方へ テレビ制作現場は変化の兆し放送作家、野々村友紀子さん

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ひとしねま

屋代尚則

「日本映画制作適正化機構」(映適)による映画の「作品認定制度」が4月、始まった。長時間労働や「セクハラ」「パワハラ」の横行が指摘されてきた業界の状況改善を目指す取り組みに、同じ映像制作を担うテレビの現場から、エールが送られている。放送作家で、自らも情報番組などに出演する放送作家、野々村友紀子さんにその理由と、自らが身を置いてきたテレビ界の「働き方改革」の現状を尋ねた。
 

テレビ界の「空気」変われば

――「映適」の設立を、どう思いますか。
 
働く環境の改善を訴えたくても、周囲の反応を恐れて言えない。テレビ業界には昔から、そんな「空気」が漂っていました。映適ができて「じゃあ、テレビはどうする? 変わらないといけないよね」と、現場のスタッフがもっと声をあげやすくなるかもしれない。そんな空気感が醸し出されて、長時間労働などが続く環境が少しずつでも見直されるきっかけになればと思っています。
 
映適だけでなく、最近の映画やテレビ業界では、キスシーンなど性的な描写の撮影で俳優やスタッフをサポートする「インティマシー・コーディネーター」が現場に立つ例が出てきています。そうした例が増えることで、実際にコーディネーターがいなくても、制作現場は自然と「配慮が必要だ」と気に留めるようになっていく。そういう空気ができることが、とても大切だと思います。


全身にブツブツ「あかん」

――野々村さんが働いてきたテレビ制作の現場の環境について、教えてください。
 
昔は本当にキツかったですよ。20年ほど前、お笑い芸人を経て放送作家に転身しましたが、当時の現場は深夜まで帰れない、または現地に泊まりこんで作業をするのが当たり前。女性のスタッフは今よりもずっと少なく、男性たちは現在なら「パワハラ」「セクハラ」とみなされる言動が飛び交っていました。カメラのアシスタントらが蹴りを入れられる場面も、よく見てきました。でも当時は皆、それが当たり前なんだという認識でしたね。
 
自分はフリーの立場だったので「依頼を断ったら、次はないかも」という焦りもあって、仕事をどんどん詰め込んでいました。深夜2時まで会議に出て、同じ日の朝8時に別の打ち合わせがあったことも。遅刻しないよう、朝の会議室に前乗りして、寝袋で机の下で寝ていました。前日に遅くまで働いていたはずのスタッフが、ロケに向かう車のハンドルを握ることもあって、今考えたらとても危ない環境でしたね。
 
――自身は体調を崩したことはなかったのですか。
 
朝の5時ぐらいに仕事をしていたら、全身に見たことのないブツブツができているのに気付きました。「あかん」と思って、少しまとまった時間を取って寝たら治りましたが。大事に至らなかったのはよかったですが、倒れる寸前ぐらいまでいかないと「休む」とは言い出しにくい環境でした。
 

「電通」の頃から変化が

――驚きです。今の現場はどうなのでしょう。
 
10年ほど前からでしょうか、改善されてきているとは感じています。女性のスタッフの数も前より増えました。昔はすぐに仕事を辞める例が少なくなかったのですが、今は続けられる環境ができている。また、かつては男女とも髪の毛が脂でギトギトの人がずいぶんいましたが、今は毎日帰ってお風呂に入れているはずで、見かけなくなりました。
 
理由としては、2015年に大手広告会社「電通」の新入社員だった高橋まつりさんが過労を苦に自殺したことや、並行して労働基準監督署の監視の目が厳しくなってきていること。それらを機に、制作現場の意識が変わってきているのではと感じています。


 

会議最長記録 夕方4時から翌朝5時

――単純に言えば、番組制作に費やす時間は今の方が短くなっています。できる番組の内容に影響は出ているのでしょうか。
 
番組の質が下がったとは感じません。昔は長時間の会議といっても、男性が夜の街に繰り出した話とか、家族をないがしろにしているのを〝自慢〟する話など、よく脱線していました。「いい番組のために、徹底して会議をやろうぜ」みたいなノリの男性が場を仕切ると、周囲は帰りたくても帰れなかった。
 
私が出た会議の最長記録は、夕方の4時から翌日の朝5時までです。それが今は「無駄な話はなくして、2時間で密度を濃くして話し合おう」と号令がかかり、実際に終了しますからね。「昔のあの会議は、何やったんやろう?」と思いますけど。
 
時間だけでなくお金の面でも、昔よりも制作費が減り、豪華なセットが用意できないといった例はあります。でも、それで番組が総じて面白くなくなったわけでもない。作り手たちも時代の変化に、対応しているのではないでしょうか。
 

制作会社に「しわ寄せ」も

――「働き方改革」は少しずつ進んでいるのでしょうか。
 
NHKの職員や民放テレビ局員の就労環境は、変わってきていると思います。一方で、下請けの制作会社には、そのしわ寄せがいっているかもしれません。テレビ局側が「この時間で終わらせよう」と言うので、現場には残らないけれど、こっそり家でパソコンを開いて編集作業を続けるといった具合です。彼らが割を食わないよう、皆が目を配る必要もあります。
 
テレビ界も映画界も、「いい作品を作りたい」という志を持つ人たちが集まっている業界です。昔はそれが「やりたいことができているから、大変でも我慢しないといけない」と思う空気につながっていた。でも今は、必ずしも長い時間をかけなくてもよい作品はできるのだと、皆が分かってきている。彼らがもっと、夢を持てる現場になればと願っています。
 
 
野々村友紀子(ののむら・ゆきこ) 1974年生まれ。大阪府出身。お笑い芸人として活動後、放送作家に転身。吉本総合芸能学院(NSC)東京校の講師も務める。情報番組「ゴゴスマ」(TBS系)の木曜レギュラーなどテレビ出演も多い。夫はお笑いコンビ「2丁拳銃」の川谷修士さん。2人の娘の母親。

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ライター
ひとしねま

屋代尚則

やしろ・ひさのり 毎日新聞学芸部記者。1979年生まれ。2002年入社。学芸部でテレビ番組など放送分野の取材を担当。ネット配信のコンテンツに関する記事も手がける。

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