「シャッター アイランド」より © 2010,2018 Paramount Pictures.

「シャッター アイランド」より © 2010,2018 Paramount Pictures.

2023.10.25

ディカプリオとスコセッシ〝真剣勝負〟の軌跡 6度のタッグ、更新される頂点

1990年代前半にブレークしてから約30年。類いまれな演技力でファンを魅了し続け、常にハリウッドの第一線を走るレオナルド・ディカプリオのキャリアと魅力をさまざまな角度から検証します。

ひとしねま

石村加奈

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」で6度目のタッグとなった、レオナルド・ディカプリオとマーティン・スコセッシ。長年アメリカ映画をけん引する名監督と、子役から飛躍を遂げ、いまや世界をとりこにするムービースター、30歳以上も年齢差のある2人は、いかにして「盟友」と呼び合うほどの最強コンビになったのか。
 
「キラーズ〜」がワールドプレミア上映された、第76回カンヌ国際映画祭の記者会見で、ディカプリオは、スコセッシの魅力を「真実を追求する忍耐力」とたたえた。その発言は、いまから約20年前、2本目のタッグ作「アビエイター」(2004年)の公開時、伝説の実業家、ハワード・ヒューズとの共通点を聞かれた、ディカプリオの「完璧への執着」(「キネマ旬報」05年3月上旬号)という自己分析に呼応するようで面白い。
 

「シャッター アイランド」より © 2010,2018 Paramount Pictures.

「アビエイター」「シャッター アイランド」で演技的成長を見せる

飛行機と映画の製作に奮闘する、ヒューズの半生を描いた「アビエイター」では、強迫神経症が主人公をむしばんでいく過程を、眉間(みけん)のしわや手の動きでリアルに表現したディカプリオ。シリアス一辺倒ではなく、トイレで入念に手を洗った後、ドアノブにさわる躊躇(ちゅうちょ)をコミカルに演じるなど、富と名声の中で孤立する奇人を、親しみを感じさせる主人公に仕立てあげた。
 
デニス・ルへインの推理小説を映画化した、4本目の「シャッター アイランド」(10年)でも、第二次世界大戦で負ったトラウマと、死んだ妻の幻影にさいなまれ、妄想の世界に生きる難役を見事に演じきった。ラストシーンで「モンスターのまま生きるか、善人として死ぬか」という、原作にはない正気を見せたディカプリオに、俳優としての大きな成長を感じた。
 

「ディパーテッド」より © 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. 

初タッグは「ギャング・オブ・ニューヨーク」、3本目「ディパーテッド」でオスカー作品賞と監督賞を

「キラーズ〜」の冒頭、への字口で汽車に乗る、さえないディカプリオの姿に驚かされた。これまでのタッグ作では、若さゆえの情熱や、大人になりきれない危うさを体現した役どころのせいか、時間経過にあらがうように、老けない印象が強かったからだ。大胆不敵な強敵を映し鏡に、成長期の人間特有の変貌をダイナミックにみせてきたディカプリオ。
 
スコセッシと運命的な出会いを果たした「ギャング・オブ・ニューヨーク」(02年)では、19世紀のニューヨークを舞台に、ダニエル・デイルイスふんする、実在した街のリーダー、ビル・ザ・ブッチャーへの復讐(ふくしゅう)をもくろむアムステルダムを熱演。図らずもビルに頭をなでられたときのピュアな表情から、いよいよデッド・ラビッツのリーダーとして、ビルと対峙(たいじ)する場面での精悍(せいかん)な顔つきまで、街の重鎮・ビルを怪演したデイルイスとは対照的な、みずみずしい存在感が輝いていた。
 
香港映画「インファナル・アフェア」(02年)をリメークした、3本目の「ディパーテッド」(06年)では、ジャック・ニコルソンふんするギャングのボス、コステロの懐に乗り込む、潜入捜査官ビリーを繊細に演じた。前触れなくバーの隣に座るコステロに気づいたときの動揺や、コリンの恋人をナンパする手口など、ガラスのような鋭さともろさをせ持つビリーの少年性が、る者の胸を切なく突き刺した。
 

「キラーズ・オブ・フラワームーン」より 画像提供 Apple TV+

デ・ニーロと30年ぶり顔合わせ「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」

「キラーズ〜」では、ディカプリオふんする主人公アーネストの叔父ウィリアムを、「タクシー・ドライバー」(1976年)をはじめ、スコセッシ作品で8本の主演を務めたロバート・デ・ニーロが演じる。デ・ニーロこそ、スコセッシとディカプリオを引き合わせた立役者である。ディカプリオと共演した「ボーイズ・ライフ」(93年)で、その才能を見抜いたデ・ニーロとスコセッシの雑談が「ギャング〜」の大抜擢(ばってき)につながったのは有名な話だ。
 
30年ぶりの共演でデ・ニーロとディカプリオは、多層的な競演を繰り広げる。丸眼鏡の似合う名士の秘めた欲望や偏見、そんな叔父を頼るしかない帰還兵の弱さや鈍感さ。派手なアクションではなく、お仕置きや拘置所でのけ引きなど、巧妙な掛け合いで、いびつな関係性や人間の愚かさを見せつけ、「レオナルド・ディカプリオの俳優人生最高の演技」と絶賛されている。
 

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」より  © 2013 TWOWS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

最終編集権を監督に提供した「ウルフ・オブ・ウォールストリート」

一方、今年81歳になるスコセッシも、ディカプリオとのタッグで、チャレンジングにキャリアを重ねている。「ディパーテッド」では、初めて第79回アカデミー賞監督賞、作品賞を受賞。
 
5本目の「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」(13年)では、ディカプリオがプロデューサーとしての手腕も発揮し、スコセッシが没頭できる製作環境を整えた(6本のタッグの中で、「キラーズ〜」を含め「アビエイター」「ウルフ〜」の実話ベースの3本に、ディカプリオはプロデューサーとしても携わっている。「アビエイター」は、ディカプリオの製作会社が初めて手がけた記念作だ)。
 
「ウルフ〜」では、シーンを豊かにするためのアイデア出しはもとより、ディカプリオ提供した最終編集権が、スコセッシを喜ばせた。時には配給会社との対立も辞さぬ姿勢で、映画作りに取り組んできたスコセッシとの、映画的友情で結ばれた、すてきなエピソードだ。
 
「キラーズ~」はスコセッシにとって、長年憧れていた西部劇への初挑戦となった。チャレンジとベストを更新し続ける2人の、更なる高みを追求した共同作業、もとい真剣勝負から生まれた「キラーズ~」。上映時間も、過去最大級の3時間26分というスケールを誇る、傑作だ。これぞ、まごうことなきゴールデンコンビの証であろう。
 
 
<画像使用作品一覧>

「シャッター アイランド」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み)/ DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年10月現在の情報です。
 

「ギャング・オブ・ニューヨーク」
U-NEXTで配信中
2023年10月現在の情報です。
 

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
全国で公開中
 

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み)/ DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年10月現在の情報です。

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ライター
ひとしねま

石村加奈

いしむら・かな ライター。映画を中心に、撮影現場取材、スタッフ・キャストへのインタビュー、作品評など、ウェブ、雑誌、劇場用パンフレットで執筆。

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