「タイタニック」より © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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2023.10.21

王子様から荒くれ者へ 「紅顔」が「無精ひげとへの字口」に変わるまで

1990年代前半にブレークしてから約30年。類いまれな演技力でファンを魅了し続け、常にハリウッドの第一線を走るレオナルド・ディカプリオのキャリアと魅力をさまざまな角度から検証します。

勝田友巳

勝田友巳

1997年11月、レオナルド・ディカプリオ来日時の大騒ぎ、今も覚えている。学芸部の映画担当になりたての頃。「レオ様」と呼ばれたディカプリオの人気がうなぎ登りに上がっていた時期。主に女性ファンの熱気、今の韓流スター以上といえばご想像いただけるだろうか。同年12月の世界公開を前に、「タイタニック」が東京国際映画祭のオープニング作品としてワールドプレミア上映されたのだ。
 

「タイタニック」が東京国際映画祭の開幕作品となり、映画祭を訪れたレオナルド・ディカプリオ=1997年11月

来日が事件になった「タイタニック」

今の映画祭を考えれば開幕作品が「タイタニック」だったのも、ディカプリオとジェームズ・キャメロン監督がそろって来日(「エアフォース・ワン」とダブル開幕作品で、ハリソン・フォードも来た!)というのも、夢のよう。
 
ハリウッドにとって日本は重要市場だったし、映画ファンにもハリウッドスターのプレミア感がまだまだ健在だった。当時の映画祭主会場だった渋谷・オーチャードホールは文字通り「黄色い歓声」に包まれ、「興奮のるつぼ」。あれはちょっとした事件だった。
 
それから幾星霜。当時はまだ少年の面影を残し美形スターの筆頭格だったディカプリオは、眉間(みけん)のシワと無精ひげ、それにへの字口が似合う性格俳優へと華麗に(?)変貌した。いや〝変貌〟は当たらないかもしれない。二枚目スターよりも演技を目指す求道心は、若きディカプリオの中に芽生えていたのだ。
 

「ギルバート・グレイプ」より TM & Copyright © MCMXCIII by PARAMOUNT PICTURES CORPORATION All Rights Reserved.

「ギルバート・グレイプ」が出世作に

74年にロサンゼルス・ハリウッドで生まれたディカプリオは、10代で子役として芸能活動を開始する。当初はなかなか役が付かず下積み期間を過ごしたが、テレビドラマで頭角を現し、91年SFホラー映画「クリッター3」で映画初出演。93年の「ボーイズ・ライフ」ではロバート・デ・ニーロと共演し、映画俳優として歩み始める。
 
この年に「ギルバート・グレイプ」に出演、ジョニー・デップが演じたタイトルロールの、知的障害のある弟を演じ、一躍注目を浴びる。19歳にしてアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、才能を開花させた。ラッセ・ハルストレム監督は「ボーイズ・ライフ」でディカプリオを目に留め、オーディションで採用。「目が違った」と回想している。
 

「ザ・ビーチ」より © 2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「レオ様」人気に背を向けて

ディカプリオの容姿であればアイドル的な役どころで人気も得られたろうが、むしろその逆をいく。麻薬中毒となり売春もする不良少年を演じた「バスケットボール・ダイアリーズ」(95年)、詩人ランボーの放蕩(ほうとう)を描いた伝記映画「太陽と月に背いて」(同)など、暗い影と純真さを兼ね備えた人物を熱演。俳優としてのキャリアを重ねていく。着実に人気を得たものの、「レオ様」の称号は当人には不本意だったかもしれない。
 
「タイタニック」で演じた悲劇的な運命に翻弄(ほんろう)される美青年ジャックが、ディカプリオ=レオ様を決定づけた。映画の興行記録と共にトップスターとして地位を固めた一方で、ジャックの王子様的イメージが強くこびりついてしまう。
 
目指すべき俳優としてロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソンを挙げるディカプリオにとって、これはむしろマイナス。そのせいかこの後4年ほどは、「仮面の男」「ザ・ビーチ」に主演したぐらいで潜伏期に入る。
 

「ギャング・オブ・ニューヨーク」より ©2002 Miramax Film Corporation. All Rights Reserved Initial Entertainment Group.

スコセッシとの出会いで飛躍

表舞台に再登場したのは2002年。スティーブン・スピルバーグ監督の「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」とマーティン・スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」が立て続けに公開される。特に、9・11テロの影響で1年遅れとなった「ギャング・オブ・ニューヨーク」は、「キラー・オブ・ザ・フラワームーン」に至るスコセッシとの長い共闘の記念すべき出発点となった。
 
ディカプリオをスコセッシに推薦したのは「ボーイズ・ライフ」で共演したデ・ニーロだったという。スコセッシはディカプリオについて「デ・ニーロやパチーノ、ホフマンといったタイプの俳優として見ている‥‥‥自分が格好よく見えないと駄目だという連中もいるが、この坊やはまったく気にしない」と語っている(「キネマ旬報」03年1月上旬号)。
 
ここからディカプリオの快進撃が始まる。「ギャング・オブ・ニューヨーク」では両親を殺され復讐(ふくしゅう)を誓ってマフィアに潜入するアイルランド移民を荒々しく演じ、ジャックのイメージを一新。スコセッシとは「アビエイター」(04年)、「ディパーテッド」(06年)と続けて組み、「アビエイター」ではアカデミー賞主演男優賞候補となった。
 
〝荒くれ路線〟はアフリカ紛争地のダイヤモンドブローカーを演じた「ブラッド・ダイヤモンド」(06年、エドワード・ズウィック監督)でも継承され、3度目のアカデミー賞主演男優賞候補入り。
 

「ジャンゴ 繫がれざる者」より © 2012 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.

タランティーノ、ノーラン、イーストウッド‥‥‥巨匠とタッグ

さらに、「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」(08年、サム・メンデス監督)での生活に疲れた中年男や、SF大作「インセプション」(10年、クリストファー・ノーラン監督)、FBI(米連邦捜査局)初代長官の伝記映画「J・エドガー」(11年、クリント・イーストウッド監督)、憎々しい敵役を演じた「ジャンゴ 繫がれざる者」(12年、クエンティン・タランティーノ監督)などなど、大監督と組んだ大作に次々と出演する。
 
10年ほどで人気、興行力とも頂点を極めたが、なぜか賞とは縁遠かった。特にオスカーでは、候補入りする度に本命視されながら空振りが続く。出演作品や監督、共演者は次々と受賞するのに、自身はなかなかオスカー像に届かない。ファンも映画界も(おそらく本人も)やきもきしていたが、「レヴェナント:蘇えりし者」(15年、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督)で、ついに悲願を達成。
 
過酷な自然環境の中の撮影に耐えて開拓時代の猟師を演じ、主演男優賞を受賞。5度目のアカデミー賞ノミネート(うち1回は助演男優賞)だった。この後も、アカデミー賞では「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(19年、タランティーノ監督)でも主演男優賞候補になっている。
 
俳優として挑戦を続けるディカプリオは、熱心な環境保護活動家としての顔も持つ。98年に環境保全、災害救援活動を支援する団体「レオナルド・ディカプリオ財団」を設立し、野生動物や熱帯雨林のために多額の寄付を何度もしている。14年の気候サミットにあたって国連からピースメッセンジャーに任命され、アカデミー賞での受賞スピーチでは「地球温暖化を食い止めるための行動を起こそう」と呼びかけた。
 
 
<画像使用作品一覧>


「タイタニック」
ディズニープラスのスターで配信中
2023年10月現在の情報です。
 

「ギルバート・グレイプ」
U-NEXTで配信中
2023年10月現在の情報です。
 

「ザ・ビーチ」
ディズニープラスのスターで配信中
2023年10月現在の情報です。
 

「ギャング・オブ・ニューヨーク」
U-NEXTで配信中
2023年10月現在の情報です。
 

「ジャンゴ 繫がれざる者」
ブルーレイ&DVDセット(2枚組、通常版):5217円(税込み)
発売・販売元:㈱ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2023年10月現在の情報です。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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