毎日映画コンクールは、1年間の優れた映画、活躍した映画人を広く顕彰する映画賞。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けている。第77回の受賞作・者が決まった。
2023.1.31
「スクリーンの大写し、恥ずかしかった」 嵐莉菜「マイスモールランド」 スポニチグランプリ新人賞:第77回毎日映画コンクール
「ただただ感謝と、すごく光栄。賞に恥じないように、今後も精進していきたいな」。モデルとしての活動歴は長いが、演技は「マイスモールランド」が初めて。まっさらの新人俳優だ。
一家で故郷を離れ、日本で暮らすクルド人難民の高校生、サーリャを生き生きと演じた。「設定を聞いた時に、アイデンティティーに関して葛藤していた幼少期の自分と共通点を感じました」。サーリャは日本で育ち日本の高校に通っているが、父親からはクルドの文化や習慣を押しつけられる。外見から外国人と思われがちで、友人には難民であることを打ち明けられない。「監督やプロデューサーとお話しして、すごく携わりたい、絶対私が演じたいって強い気持ちになりました。台本を読んで、涙が出た」
サーリャに自身の経験を重ね
自身は生まれも育ちも日本だが、日本とドイツ、イラン、イラク、ロシアと5カ国のルーツを持つ。外見から外国人と思われることも多かったという。サーリャの経験が自身と重なった。例えばサーリャがバイト先のコンビニでレジを打っていると、客から「お人形さんみたいね」「日本語上手ね」と話しかけられる。
「サーリャとは、置かれた状況はまったく違うんですけど。『お人形さんみたい』『日本語上手だね』って、私も数えきれないほど言われたんです。今はポジティブに受け止めてるけど、小さいころは、日本で生まれて、自分の中でも日本人として生きてるのに、私はやっぱり外国人だなって思ったりしました。そんな過去の感情をのせて演じました」
クルドの人たちを知ってほしい
サーリャ一家は難民申請を認められず、働くことも住んでいる埼玉県から出ることもできない。映画は在留外国人や難民をめぐる、理不尽な状況を描いている。
「クルドの人たちのことはこの映画で初めて知って、自分の無知に気付きました。勉強しなきゃなって」。日本で暮らすクルド人と交流し、役作り。「クルドのお料理をごちそうしてもらったり、衣装を着せてもらったり、楽器を弾いて歌ってくれたり。文化に触れて視野が広がったし、お話を聞いて現実を知って、イメージしやすくなった。この作品を通して思いや声を伝えられるのは、すごく大切だと思います。クルドの人たちのことを知っていただけたら」
川和田恵真監督にとっても、これがデビュー作。また監督自身も、英国人の父親と日本人の母親のミックスルーツで外見で苦労することもあったといい、共通する部分も多かった。「葛藤を共有して、仲間意識がありました」
川和田恵真監督が勇気をくれた
「初めての撮影で本当に何も分からなくて、私が主演で、みんなの足を引っ張るんじゃないかなと不安でした。でも監督が、私も初めてだから一緒に作り上げようって、勇気をくれた。『莉菜ならできる』と励ましてくれたり褒めてくれたり、自信を持てるようになりました」
サーリャの家族を演じたのは、実の父親と弟妹。自身とは別にオーディションを受けて起用されたという。「家族全員で共演するなんて、普通は一生ない。恥ずかしかったけど、役に入り込めてよかった」。受賞は家族も大喜び。
© 2022 「マイスモールランド」製作委員会
人の心を動かすことができる俳優に
完成した作品を見て「スクリーンに大きく自分が映ってるのが、最初は恥ずかしかった」と初々しい。「それでも途中から、映っているのが別人のようで、一観客として見ました。すごく不思議な、モデルの撮影では味わえない感覚。感動しました。映画は見るたびに泣いちゃう、いい作品だなあって。出合えてよかった、宝物です」
撮影時は17歳。赤ちゃんモデルからキャリアをスタートし、一時業界から離れたが、現在も人気モデルとして活躍する。いずれは俳優もと考えていたが「まだまだかなと思っていた」時に、所属事務所にオーディションを勧められた。「撮影は大変でしたけど、お芝居の楽しさを教えていただいた。役を通して生き方や考え方、文化を知ることができる。そして、学んだことや感動したことを、スクリーンを通して伝えられる、人の心を動かすことができる。そういう俳優になりたいと思います」
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