毎日映画コンクールは、1年間の優れた作品と活躍した映画人を広く顕彰する映画賞です。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けています。
2024.1.30
声なき声を届けた 女優主演賞 杉咲花「市子」 毎日映コン・選考経過と講評
第78回毎日映画コンクールは、各部門で2段階選考を行った。「作品」「俳優」「スタッフ」の各部門は、映画評論家ら約70人の選考委員による投票で1次選考を行い、「アニメーション」「ドキュメンタリー」の両部門は、推薦・公募で集まった作品から1次選考委員による討議で、それぞれ候補作を決定した。2次選考は各部門の選考委員が討議し、受賞作・受賞者を決めた。外国映画ベストワン賞は、選考委員による2回の投票で決定した。田中絹代賞は、特別賞とともに諮問委員会で選ばれた。各賞の2次選考の経過と、選考委員による講評を紹介する。
【俳優部門・女優主演賞】
他に候補は安藤サクラ(BAD LANDS バッド・ランズ)、黒木華(せかいのおきく)、菊地凛子(658㎞、陽子の旅)、趣里(ほかげ)。
「存在を信じられた」「悪いことをしていても応援したくなる」と杉咲が高評価。一方「役作りが巧み」と安藤、「演技のうまさが突出」と黒木を推す声も。投票で杉咲5、安藤、黒木各1。
魔術に近い俳優の仕事
©️2023 映画「市子」製作委員会
【講評】川辺市子という人物がおかれた想像もしがたい困難な状況を、彼女の実在を信じられる程までに誠実に献身的に演じた杉咲。繊細な感情がほとばしり「ただそこに在り今を生きる」という芝居が強く印象に残る。実在していたなら新聞報道等で容疑者/犯罪者としてしか認知できなかったであろう市子という存在に対して、戸田彬弘監督らスタッフと杉咲は想像力の限りを尽くし、声なき声を観客に届けることに挑戦した。分からないことは分からないまま心に引っかかりを残すさじ加減にも好感を持った。AIなどの進歩により俳優の実存がますます軽視されつつある今、本来俳優の仕事とは科学というより魔術に近い、畏怖(いふ)すべきものだと再認識もした。杉咲と「市子/月子」のこれからを見つめていきたい。(小林聖太郎)
【受賞者インタビュー】
女優主演賞 杉咲花 「表現しない」演技 「他人も役も分からない。だから想像できる」
【選考経過・講評】
■作品部門 日本映画大賞「せかいのおきく」 選考委員全員が推した
■俳優部門/田中絹代賞
男優主演賞 鈴木亮平 演技の深淵に近づく一歩
女優助演賞 広瀬すず 難役を伸び伸び演技派へ
男優助演賞 宮沢氷魚 「龍太」と恋に落ちた
田中絹代賞 薬師丸ひろ子 時代駆け抜け永遠不滅
スポニチグランプリ新人賞 サリngROCK 映像でもっと見たい
スポニチグランプリ新人賞 アフロ 役を生む表現者の本領発揮
【俳優部門 2次選考委員】
石村加奈(ライター)、金澤誠(映画ライター)、小林聖太郎(映画監督)、関口裕子(映画評論家、編集者)、洪相鉉(映画評論家)、三沢和子(プロデューサー)、佐藤雅昭(スポーツニッポン新聞社文化社会部特別編集委員)
【1次選考委員(順不同)】
樋口尚文、寺脇研、出口丈人、木全純治、平山允、襟川クロ、佐藤雅昭、鈴木元、金原由佳、大高宏雄、関口裕子、小林聖太郎、北小路隆志、渡部実、津島令子、石坂健治、宮澤誠一、野島孝一、北條誠人、轟夕起夫、ミルクマン斉藤、坂野ゆか、矢田部吉彦、細谷美香、荒木啓子、恩田泰子、三留まゆみ、古賀重樹、小菅昭彦、小西均、佐伯知紀、立花珠樹、賀来タクト、塩田時敏、石村加奈、尾形敏朗、吉田伊知郎、中山治美、高橋諭治、立田敦子、三浦理高、小野民樹、森直人、竹内公一、柏原寛司、富山省吾、磯貝正人、岡本耕治、小林淳、秋本鉄次、小野耕世、川口敦子、福永聖二、村山匡一郎、鬼塚大輔、金澤誠、国弘よう子、きさらぎ尚、北川れい子、掛尾良夫、萩尾瞳、内海陽子、安藤紘平、田中文人、稲垣都々世、相田冬二、谷川建司