第78回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞 サリngROCK「BAD LANDS/バッド・ランズ」=大西岳彦撮影

第78回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞 サリngROCK「BAD LANDS/バッド・ランズ」=大西岳彦撮影

2024.1.23

「絶対イヤ」「BAD LANDS」出演3度断ったサリngROCK 毎日映コン スポニチグランプリ新人賞受賞に「笑いました」

毎日映画コンクールは、1年間の優れた作品と活躍した映画人を広く顕彰する映画賞です。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けています。

最上聡

最上聡

「笑いましたね。知らせをくれたマネジャーも笑っていました。2人で『こんなこと、あんねんな』って」。絶対、嫌です――とまで断っていた初の映像作品出演で、スポニチグランプリ新人賞を射止めたサリngROCK、クライムサスペンス「BAD LANDS/バッド・ランズ」で裏社会の謎多き女・林田を演じた。「今まで何で(映画に)出なかったの?」と周囲から言われ、祝福にも「まだ受賞を受け止め切れていない自分がいる」と、照れくさそうに言う。
 


原田眞人監督から「四顧の礼」

関西を拠点とする劇団「突劇金魚」を設立して20年。脚本、演出を手掛け、舞台で知られた存在だが、近ごろ役を演じることは少なかった。そんなサリngROCKに、白羽の矢を立てたのが原田眞人監督だった。「何かウェブ上の動画で私の声を聞いたとか……」と、詳しい事情は本人も知らぬまま、出演に向けての「三顧の礼」ならぬ「四顧の礼」を受けた。

「本当に?」とマネジャーにいぶかしがられながら、3度も依頼を断ったのは舞台へのこだわりでも、映像嫌いのせいでもない。「まるで大物俳優みたいになってしまったけれど、単にこれまで機会がなく、びびっていただけ。芸能人がいるところになんて怖くて行けない。基本しんどいことが嫌。気楽に生きていたい人間なんで」

そんなびびりに、「監督は優しくしてくれたというか、気遣ってくれたというか」。演技の要望については詳しく丁寧に説明があり、現場にスムーズに入れるようにと読み合わせも重ねてくれたという。


「BAD LANDS バッド・ランズ」©2023「BAD LANDS」製作委員会

目の前の演者に集中 楽しかった映画の演技

鮮やかな金髪、鋭い目つき。林田は圧倒的に印象に残るビジュアルだ。サリngROCKも「関西弁で、目立つ役をいただきラッキーだった」と振り返る。原田監督は、そんな強そうなイメージの林田に対し、おちゃめな要素を入れようとした。語尾を「しぃ~」と伸ばして言わせてみたり、変なポーズを取らせてみたり、往年の女優、浪花千栄子のものまねをさせてみたり。仕上がりを見ると、納得だった。「怖そうなやつに、ちょっと緩いところがある方が面白い」と感じることができた。

撮影現場では、主演の安藤サクラも場を和ませようとしてくれたという。賭場のシーンだった。「私が座敷に座っていて、安藤さんが通り過ぎてチラチラ見るという場面で、安藤さんがカメラが回っていないときまでチラチラ、ニヤニヤされて、『まるで動物園の動物みたいに見るじゃないですか』と掛け合ってうれしかったのが記憶に残っている」と笑う。

舞台では目の前の演者と観客の双方に気を配り、声を大きくして劇場内にはっきりと届けることなどが求められる。しかし、映画では目前の演者だけをみて、近い距離の「ここだけの世界」で演技をすることもできた。「もちろん、分かってきたらカメラの位置など、どんどん気を使うことは増えてくるんでしょうけれど、映画の演技は楽しかった」と振り返る。


自分を解放してくれた変な芸名

サリngROCKという芸名の由来は、大学の演劇サークル時代にさかのぼる。「サークルでは、変な芸名を付けるノリがあった」。サリngが本名をもじったあだ名で、初めは「サリng助教授」だった。そんな「変な芸名」は、自身にとっては大きな意味があった。「高校までは本名で演じていたけれど、その芸名で何か解放され、自由な気持ちになれた」。演劇を続けていこうと、大学を卒業して劇団を作ってからも芸名で通した。27歳になって「『助教授』が大学生ノリ過ぎて恥ずかしくなり、『ロックに生きたい』と変えた」のが今の芸名になる。

母が絵本作家で、自宅には本がたくさんあったという。そんな中、ひかれた絵本の物語は「かいじゅうたちのいるところ」(モーリス・センダック)をはじめ、エドワード・ゴーリーやティム・バートンといった「暗めのファンタジー、でもちょっとビジュアルが可愛い」というものだった。自身の手掛ける脚本に暗いトーンが多く、奇妙な生きものが出てくることが多い。そんな世界観は「絵本から出てきていると思う」と自己分析する。小中学校で、お笑いや漫画家に憧れたのも「舞台や話をつくる」ことへの興味だった。


他の分野ものぞいてみたい

今回の林田の演技は、すべて監督の指示。ただ、普段から自身には「ちょっと笑わせたい願望」があるといい、ものまねや変なポーズをとる演技にも、違和感なく取り組めた。「ギャップ」の生むおかしさ、面白さは自身の作品にもつながる。「この映画も現実の話だけれども、どこかファンタジー的な要素を感じる。大阪にあんな広いビリヤード場なんてないし、そもそも林田みたいなやつらがファンタジー。リアリティーだけによっていないのがいい」

映画公開の時期、劇団もロングラン公演中だった。「映画を見て、来ました」という観客が東京など遠方からもあり、「ありがたい追い風だった。純粋にうれしかった」と振り返る。自身の脚本が映画やドラマになる夢に加え、絵を描くことやアニメ声優にも興味があるという。受賞で可能性の広がりを感じている。「近ごろ演技への苦手意識も、自分のできることをやればいいと減ってきた。他の分野も怖い世界でないならば、のぞいてみたいかな」

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ライター
最上聡

最上聡

もがみ・さとし 毎日新聞大阪本社学芸部記者。1978年埼玉県生まれ。2001年毎日新聞社入社。奈良支局、和歌山支局、大阪本社学芸部、東京本社学芸部、和歌山支局次長を経て現職。映画の他、囲碁や将棋、音楽分野の取材を担当している。

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