国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。
2023.11.20
観客をうならせ考えさせ、邦画の未来を照らす97分間! 深川栄洋監督最新作「法廷遊戯」
やはり東大時代、企業システムや企業行動、企業経営などを研究する恩師のゼミに所属していた影響は無視できないのか。映画そのものについて話す時は評論家の観点で論理を展開するが、映画産業を語る時は経営学の観点からその生産者、すなわち製作会社を評価する場合が多い。このような筆者にとって東映というメジャースタジオは、非常に魅力的な映画市場のプレーヤーなのだ。
まずは組織の行動にダイナミクスがある。たくさんの社員や部署が存在しているが、究極的に会社の名前が呼ばれたら皆一致団結して対応してくる。「あれは他方の所管だから」といった気楽な、経営者の立場から見れば給与が惜しくなりそうな態度とは無縁の企業文化が感じられる。次に徹底した顧客中心の営業戦略、つまり「お客さんのためなら何でもあり」というサービス精神。このような積極性は1950年代、任俠(にんきょう)映画などで邦画の黄金時代をリードし、世紀が変わった今でも業界の模範となるほどさまざまな試みで映像文化の先頭に立つ「トレンドセッター」としての面貌で発現している。そして最後は想像力。メジャー社の中で基本的な収益の大部分を映像部門で稼いでいるのは東映が唯一だと言える。だから作り出すコンテンツのジャンルも多様で、誰も見たことのない新鮮な作品が絶えず生まれてくる。
以上の理由から、映画祭関係者として東映のラインアップを見ると、まるでお菓子屋に入る子供のようにドキドキする。今年も期待通りだった。アニメ、ホラー、特撮物、アクション、コメディーにドラマまで有能で献身的なプロデューサー陣の奮闘のおかげで、面白さと完成度のバランスが取れている作品群が相次いだ。11月10日に公開された「法廷遊戯」も、この「日本代表メジャースタジオ」の下半期代表作のリストに含まれる。
どんでん返しを繰り返す!? 深川監督の最新作「法廷遊戯」
「法廷遊戯」は江戸川乱歩から東野圭吾に至るまで、アジアでは唯一きちんとした文学の体系を整えて発展してきた日本推理小説の新星ㆍ五十嵐律人に、奇抜な実験性と文学的成就度の両軸を包括する30年の伝統があるメフィスト賞を与えた原作を映画化したという点で、企画段階から注目を集めていた。その上、ひとまず挙げるべき点は原作の魅力を最大限生かすものの、衝撃的な導入部から視線を固定させ、観客に叙事の流れと自分の呼吸が連動する驚くべき経験を与える監督ㆍ深川栄洋の抜群の演出力である。
世界的にジャンルフィルムフェスティバルが少ないため、映画祭という場で紹介される機会も多くなかったが、深川監督の腕は海外でも十分検証されている。初期作の「『非女子図鑑』B」「白夜行」「洋菓子店コアンドル」「トワイライト ささらさや」「サクラダリセット 前篇/後篇」「そらのレストラン」などの映画が公開され(そのうち「白夜行」は韓国でリメークまでされた)、マニアも存在しており、テレビドラマの「僕とシッポと神楽坂」では、猛烈なファンがグッズを買いにテレ朝の記念品店を訪れている。今回の「法廷遊戯」でも深川監督は序盤部の「無辜(むこ)ゲーム」シーンで、「何だ、変わった設定だな」とニコニコしながらスクリーンを眺めていた観客をわずか数分後、「私、今、さっきと同じ映画を見ているのか?」と驚かせるほどだ。そう、当初ロースクールの英才たちの「頭脳ゲーム」というトレンディーな形で始まった作品は、ストーリーが展開されるにつれ、予想を覆す爆発力を持った本格推理劇で法廷ドラマに変貌していく。
確実な演技力が作品に厚みをもたらす、最強の布陣
さらに、日本映画のニューウエーブを支えているキャストの演技力は、ストーリーテリングの堅牢(けんろう)性を高めるのに驚くべきシナジー効果を発揮している。順にその例を挙げると、筆者が執行委員長のアドバイザーを務めている全州国際映画祭で上映された、「トイレのピエタ」と「繕い裁つ人」で役者としての潜在力を示し、「湯を沸かすほどの熱い愛」「十年 Ten Years Japan『DATA』」「楽園」、今年の「市子」などで釜山国際映画祭の観客を沸かせた杉咲花は、これまでの清純で弱々しいイメージを覆す演技変身を披露している。また、昨年の富川国際ファンタスティック映画祭ㆍMIFFベストアジア映画賞に輝いた「真夜中乙女戦争」の永瀬廉は、反転を繰り返すキャラクターを見事に演じている。それだけではない。作品性と大衆性を兼ね備えた新作や国際的な関心を集めた話題作を上映する釜山国際映画祭のオープンシネマ部門で、女性観客の歓呼を引き出した「東京リベンジャーズ」の北村匠海の好演まで合わさり、文字通り「ゴールデンㆍトライアングル」を完成させている。
最後に特記すべきことは、同作が刺激的な快楽を満たすポップコーンムービーを超え、司法制度の矛盾を暴き出し、観客に映画を見た後の思考の余地さえ伝えることだ。ランニングタイム97分の映画とは思えないぐらいあふれる美徳に、予想外のギフトセットを手渡されたような喜び。
筆者が活動しているソウルでは最近、いわゆる「映画の危機」についての議論が激しくなっている。確かに莫大(ばくだい)な予算が投入されたブロックバスターの相次ぐ興行不振を見ると、そのような暗いムードが出てくるのも仕方ないかもしれない。しかし、その半面、日本映画人としてのアイデンティティーを持つ筆者として、このようにコスパの優れたジャパンムービーが列をなして公開されるのを見ると、「落胆するにはまだ早い」と笑みを浮かべるようになるのだ。