「ジョン・ウィック:チャプター2」来日時に会見したキアヌ・リーブス=手塚耕一郎撮影

「ジョン・ウィック:チャプター2」来日時に会見したキアヌ・リーブス=手塚耕一郎撮影

2023.9.22

記者が体験!聖人伝説 テンパった私をほぐしたキアヌの一言とは 「ジョン・ウィック:チャプター2」来日時単独会見記

最新主演作「ジョン・ウィック:コンセクエンス」が9月22日(金)に公開されるキアヌ・リーブス。来日プロモーションはかなわなくなったものの、公開を前に「ジョン・ウィック」シリーズの紹介、俳優としてのキャリアに人となりなど、全方位的にキアヌの魅力に迫ります。

最上聡

最上聡

ホテルの一室で、キアヌ・リーブスに相対した際、細かい言葉のニュアンスなどについて話をしているうち、つい私は通訳の方の方ばかりを向いていたようだ。そんな折、キアヌが「僕を見てね」と冗談めかし、私は「すみません、今までの取材で一番緊張しているのかもしれません」と返し、場が和んだ。時折のジョークで、キアヌも私も通訳の方にも笑いが交じった。
 


 

実直さがにじみでた長い沈黙

取材したのは6年前の2017年6月。「スピード」「マトリックス」が代名詞のキアヌだが、私が「ジョン・ウィック:チャプター2」の直前に見ていたのはミステリーの「砂上の法廷」だったこともあり、アクションへのこだわりを中心に尋ねた。
 
キアヌが「ものすごくいい人」だという話は、当時のウェブ上にも諸々転がっていたのだが、実際のところも全くその通りに感じた。「アクションは好きだけどね」と付け加えつつも、どんな映画でも役作りに対して真摯(しんし)なのは言うまでもなく、一つ一つの質問に時折考え込んでまで、しっかり答えてくれた姿勢に、人柄の実直さがにじみ出ていた。
 
一番、考えながら言葉を絞り出したのは、親日家とされるキアヌに「日本でまだ行っていなくて行ってみたい場所、日本を舞台にした作品に興味はないか」と尋ねた質問に対してだった。「もっと日本のこと知らないと」と言い、「場所、人‥‥‥」と悩みつつ、安易な返答をしない。短い取材時間。普通ならば、当意即妙に返してもらい、次々話が進んだ方がうれしいはずなのだが、私は知的なキアヌとの時間をかけたやり取りに喜びを覚えたのだった。
 

「ジョン・ウィック:チャプター2」で来日 (2017年7月6日毎日新聞より)

俳優キアヌ・リーブスを、硝煙や格闘が似合う男に返り咲かせた映画「ジョン・ウィック」(2014年)。7日から公開の続編「ジョン・ウィック:チャプター2」でも、「伝説の殺し屋」を演じ、銃に車、刃物と多彩なアクションで見せる。「どんな映画でも、役柄へのアプローチの仕方は変わらない。演じるキャラクターが何を考え、物事に相対するのか、突き詰める」と言いつつ、付け加える。「でも、もちろんアクションは楽しいよ」
 
鉛筆1本で、3人の男を殺したと言われる腕を持つジョン・ウィック。たった1人で米ニューヨークのロシアン・マフィアを壊滅させた前作の死闘から5日後、再び隠居生活に入ろうとするが、かつての仲間が、イタリアン・マフィアのボス殺害の依頼に現れる。断りたくとも断れぬ仕事で、ローマに潜入するジョンだが、そこには幾重もの罠(わな)が張り巡らされていた。
 

射撃練習2カ月で1000発以上

「ジョンの住む裏社会の描写が大好きなんだ」と言う。シリアスだが、時折交じるユーモア、ジョーク。銃ソムリエなる人物が登場し、ジョンとワインのように、銃選びをする場面もある。「裏社会のキャラクターを多様に見せることが、チャド・スタエルスキ監督がやりたかったこと。前作よりユーモアに色彩があるのでは」と語る。
 
「マトリックス」でカンフー、「47RONIN」で居合道や剣術を習うなど、徹底した役作りは変わらない。射撃チャンピオンのもとで、2カ月以上にわたって週3~4日、1000発以上撃ったという。「役者の楽しみは、掘り下げること。料理でも何でも、普段していないことなら体験してみる。実際やったらどんな思考をたどるのか、毎回学ぶことがある。中でも銃のことは、すごく楽しい」
 
本作は、撃ち合いというより、武器を使っていても接近戦が目につく。車を使った新感覚のアクションシーンはあるが、古典的なアクション映画の雰囲気も感じさせる。「文字通り、襟首つかんで戦っているからね。それが『古典的』と思われる理由じゃないかな」と分析する。
 

日本の文化にリスペクト

柔道や柔術技の割合は前作を上回る。「僕も監督も、日本の武道の文化、過去の映画を大事にし、オマージュをささげたつもりなんだ。いつも僕にリスペクトをくれる日本の皆さんに、楽しんでもらえたら」と強調する。
 
キアヌに、日本を舞台にした作品に興味がないか聞いてみた。とても真剣に、しばらく悩んだ後、「日本に外国人が来た設定で何をするかな。現代劇か時代ものか。何かいいストーリーがあれば」と口にし、「現代美術家が日本の古典絵画を学びに来るんだけど、実はその人も暗殺者だった、みたいな話とか――」とたおやかに笑って話すアクションスターだった。

ライター
最上聡

最上聡

もがみ・さとし 毎日新聞大阪本社学芸部記者。1978年埼玉県生まれ。2001年毎日新聞社入社。奈良支局、和歌山支局、大阪本社学芸部、東京本社学芸部、和歌山支局次長を経て現職。映画の他、囲碁や将棋、音楽分野の取材を担当している。